今や「地球上最高の選手」などと称されるメジャーリーガー・大谷翔平。今年もワールドシリーズ連覇、4度目の満票によるMVP受賞という実績をあげ、日米のファンを魅了した。投手として復帰しつつ打者として自己最多の本塁打を記録。2年ぶりの二刀流には投打それぞれに進化が見られた。スポーツニッポン新聞社のMLB担当で大谷番記者の柳原直之氏による特別寄稿をお届けする(冒頭の写真はナ・リーグ優勝決定シリーズ第4戦で先頭打者本塁打を放つ大谷)。

2025年シーズンの大谷は主に1番に座り、地区4連覇、ワールドシリーズ連覇へドジャースをけん引した。昨季を1本上回る自己最多&球団記録の55本塁打を放ち、打率・282、102打点、20盗塁で、自己最多146得点を挙げた。

投手としても6月に2年ぶりに復帰し、14試合に登板し1勝1敗、防御率2・87。47イニングで62三振を奪った。結果だけ見れば順風満帆。ただ、これらは変化を恐れず取り組んできた準備と練習の成果にほかならない。今季の変化を投打に分けて解説する。

2つの新「相棒」で戦った2025「打者・大谷」

今季開幕直後の「打者・大谷」は昨季よりも1インチ(約2・54センチ)長い、35インチ(約88・9センチ)のバットを使い始め、途中からは34・5インチ(約87・6センチ)をメインで使い続けた。重さはともに32オンス(約907グラム)で昨季より0・5オンス(約14・2グラム)重く、打球速度と飛距離が増す要素を含んでいた。

23年から使用する米国メーカーのチャンドラー社製バット。身長1メートル93の大谷のように大柄な選手なら、広いストライクゾーンをカバーできる利点がある。同じく同社製の35インチを使用するのは、身長2メートル1でア・リーグMVPのヤンキースの主砲ジャッジら数人しかいない。

外野手コンフォートは「2人とも大柄。(使いこなすには)力強さとスイングスピードを兼ね備えた打者である必要がある」と分析。主軸のT・ヘルナンデスが「長すぎるんじゃないか」と笑うなど、メジャーリーガーにとっても規格外のサイズだった。

長尺バットは、操作が難しい一方、遠心力でヘッドが走り、より鋭い打球を飛ばすことが可能になるメリットがある。9月2日のパイレーツ戦で新人右腕チャンドラーから放った46号本塁打は、自己最速の打球速度120マイル(約193・1キロ)。今季メジャー全体でも3番目の痛烈な当たりだった。

大谷は開幕直後にこの長尺バットを使う理由を問われると、詳細は伏せ「もっともっと良いバッティングを求める中で、こっちの方がいいんじゃないかと思ったら変えますし、短い方がいいんじゃないかと思ったらそれに対応していければいいんじゃないかと思います」と話すにとどめた。

シーズン終盤には今季は試合用バットだけでなく、練習用バットも変化を加えていたことも判明した。

ブルワーズとのナ・リーグ優勝決定シリーズ第3戦の前日練習。大谷は今季初の屋外フリー打撃を敢行し、黒バットの先端半面が銀色に塗装された練習用の特製バットを、公の場で初めて披露した。昨オフの左肩手術後、左腕が後ろに引っ張られる動きを避けるために今季から使い始め、アーロン・ベイツ打撃コーチは「スイング軌道を正しく保つことが目的。銀色の部分でボールを捉える意識を持ってスイングしている」と説明した。

この練習用特製バットは34・5インチ、32オンスで試合用と同じながら、視覚的にスイング軌道を確認できる効果があるそうで、「バットを外から内に出すのではなく、ゾーンの中を真っすぐ通す感覚を身につけるためのもの」と同コーチ。「打者・大谷」は新たな2つの「相棒」で戦い抜いたシーズンだった。

コンディション面では、シーズン161試合目のマリナーズ戦を欠場したことが、ポストシーズンでのフル出場に大きく寄与した。

3年連続本塁打王へ、ナ・リーグトップのフィリーズ・シュワバーに2本差に迫る中で欠場したことについて、大谷はその後の会見で「チーム全体のボリュームとして、また自分のボリュームとして最後に休みを挟んだ方がいいのではないかな、と。ポストシーズンに向けてっていう判断ではあると思う。特に後悔はない」と理由を説明した。

初めて本塁打王争いを繰り広げたエンゼルス時代の21年のシーズン終盤は「もちろん(本塁打王を)獲りたい。個人的には意識しながらやりたいなと思っている」と語っていただけに、環境、立場、心境などここ数年で目まぐるしく変わった変化を感じることができた。

尚、盗塁は昨季の自己最多59から今季は20に大幅に減らした。大谷は盗塁の減少について、6月中旬に「いや、どうですかね。打ったのがほとんどホームランになっているので。逆にフォアボールを取ったりとか、前にランナーがいるというシチュエーションだったりとか、そこまでいく必要がない場面で一塁にいることが結構多い。必然的に減っている印象ですね」と語っていたが、周囲の印象は違う。ロバーツ監督は「体に負担をかけないように、自分で調整している。昨年なら走っていただろうが、今は違う」と分析している。