鍵をなくしたらどうなった?

(当時の看護師)
「私らはもう、そんなことをしたら患者さんみんな家に帰ったり外に出てしまうと。門を開けるんじゃから。だけど先生は患者さんを信じて開けちゃったね。そしたら、無いんですよ(患者の無断外出が)。全く無かったんじゃないけど私らが想像した程の数字じゃないんですよ」

病棟から鍵は取り払われました。しかし、ある日、重度の精神疾患がある男性患者の行方が分からなくなりました。幸い、男性は生まれ故郷の因島で見つかりました。一人で、墓参りに帰っていたのです。

(山本先生の回想)
「(意志の)疎通が全く無い、荒廃してしまった(人という)位置づけで見とったんですが、実際は『ちゃんと墓参りもしたい』と、とりあえずフェリーに乗って因島に行かにゃいけんわけだし、それはちょっと僕にとって衝撃だったですな」

その後、山本さんは、岡山県精神衛生センターの所長を25年間つとめ、退任後も、患者と対話を続けて来ました。尾道での経験から、患者を患者として見るのではなく、一人の人間同士、対等に向き合い、解決の糸口を探ってきました。