元常務の“全面降伏”で外堀埋まる・・・特捜部の矛先は新井将敬へ

10月30日、東京地検特捜部は、総会屋・小池隆一への利益供与事件で、日興証券H元常務の上司にあたる2人の元副社長を、商法違反および証券取引法違反の容疑で逮捕した。

その日、Hは黒川検事から2人の「逮捕状」と「弁解録取書」を示される。
内容は、容疑を認めるものだった。Hはその場で「自白調書」に署名し、全面的に容疑を認めた。それは、Hがついに特捜部に屈した瞬間でもあった。

翌31日、猪狩は東京拘置所でHと接見した。Hは、自白した以下の内容を淡々と報告した。

「逮捕状のことはその通りです。これまで“総会屋”“損失”“付け替えによる評価益”の3点について知らないと言ってきましたが、総会屋だろうと思っていました」
「日興証券の取引で損失が出ていることも知っていました。付け替えで評価益を出すことは利益供与にあたり、商法違反と分かっていてやりました。これまで反対のことを言い張ったのは、そうすることが会社のためになると思ったからです。しかし、よくよく考えてみると、理にかなわないことをしていた。深く反省しています」(H元常務の供述調書)

11月11日、Hは商法違反と証券取引法違反の罪で起訴された。すでに全面的に認めていたこともあり、まもなく保釈が認められた。

その数日前、Hはさらに「新井事件」についても口を開いていた。

「新井さんの申し入れで、西田邦明名義の借名口座を開設しました。日興証券の自己売買で得た利益を、新井さんの借名口座に付け替えました」

Hは猪狩や自らの妻の意に反し、事実上、特捜部に全面降伏したのである。

「今となっては何をか言わんや。砂を噛むような暗澹たる気持ちで、私は東京拘置所を去った」(「激突」猪狩俊郎)

全身から力が抜け落ちるのを感じながらも、猪狩は確信した。

「H元常務が自白したことで、東京地検特捜部の次の標的は、大蔵官僚出身の国会議員・新井将敬に向かうだろうーー」

こうして、新井将敬による日興証券への利益供与要求事件の“外堀”は、完全に埋められたのである。

H元常務が取り調べを受けていた東京拘置所(東京・葛飾区小菅)※金丸脱税第3回で使用