厳しい特捜部の追求と日興上層部のゆさぶり「会社を守るために・・・」
しかし、日興証券のH元常務は、東京地検特捜部の追及が厳しくなると、次第に気力を失いつつあった。さらに追い打ちをかけるように、日興証券上層部がHを揺さぶり始める。
1997年10月、H夫妻は金子昌資社長から呼び出しを受けた。Hから「同行してもらないか」と頼まれた猪狩は了承した。新井の顧問役でありながら、Hに同行することが危険な行為であるとは認識していたが、依頼人であるHとの信頼関係を考えての判断だった。
社長室に入ると金子からこう切り出された。
「日興証券本体を守るために、総会屋・小池隆一に利益提供したことを検察に認めてもらえないか」
H夫妻は事実をきっぱり否定した上で、金子社長からの申し出を断った。
つまり金子社長の主旨は「付け替えで利益をもたらしたグレーの部分はあるが、検察は組織ぐるみの利益供与だと疑っている。会社を守るためにグレーのところをクロとして供述してくれないか」というもので、日興弁護団も同じ意見だという。
すると、同席していたHの妻が鋭い口調で金子社長に反論した。
「なぜそんなウソを言ってまで主人を罪に陥れようとするのですか。そんなことを認めたら、主人は会社にいられなくなり、収入がなくなります。会社は主人にウソの供述をさせて、私たちにどんな保証をしてくださるのですか」
金子社長が「十分な償いはします」と答えると、妻は具体的な受け入れ条件を口にした。
「多額の住宅ローンも残っており、主人が容疑を認めるのなら、月230万円の保証をしていただければ協力してもいいです。ただし、会社の誠意も示してほしいので、一時金をいただきたい」
その場では結論は出なかった。話し合いは継続という形で終わった。














