尾崎世界観と「ニュース」

小川キャスター:
日頃ニュースをご覧になっていて、尾崎さんが何か気になるキーワードはありますか。

尾崎世界観さん:
自分自身もよく言われるので、「SNS」「炎上」「誹謗中傷」「分断」「切り取り」「差別」など全部が繋がっているように感じます。今はどこか一つだけ言葉を選んでも、それに紐づいて色々な言葉が出てくるので、すごく厄介な時代だと思います。

ニュース自体もそうですが、その向こう側を見る力が大事だなとつくづく思いますね。一つのニュースがあったときに、必ず後からまた色々な結果が出てくるので、ちゃんと最初にその向こう側を見ようとする力が必要だし、こちらも何かを伝えるときに、ちゃんとその向こう側を見て伝えたい。今回の曲も、そう思いながら作ったつもりです。

喜入キャスター:
答えや結論を早く欲しがる時代になってきているからこそ、そこまでのプロセスをきちんと見せることがなかなか難しくなってきていると思います。

尾崎世界観さん:
本当に難しいですね。あとは、簡単に称賛されるし、簡単に叩かれるし、極端ですよね。言葉を発する側もそうですが、それを受け止めてSNSに投稿したり、何か褒めるときでも、その自分の向こう側、自分の反対側を見るのは大事だと思います。

生きていたら意見は変わるじゃないですか。自分の中でも「なんか変わってるな」と思うことはよくあるし、それは普通のことだと思うので、何かを発信する時に、「今はこういう感情だけれど、もしかしたら、後でこういうことを思うかもしれない」と少し予測するだけでも、世の中にあふれる言葉が変わっていくのかなと思います。

トラウデン直美さん:
本当に誰かに出会ったり、言葉に触れたりするだけで、少しずつ自分が変化していくことはよく感じますし、全部に早く反応しようとしてしまいますが、一つの言葉に対して、時間をかけてかみ砕いていく時間はすごく大事だと感じます。

尾崎世界観さん:
その時間を意味のあるものにするために、わからないという気持ちが大事だと思います。わからないことをちゃんと認められれば、それだけ時間ができるし、色々なことを考えたり、色々なものに触れられると思います。

小川キャスター:
自分とは全く関係ないんじゃないかと思ってしまうような事象やニュースも、時にはあるかと思いますが、以前、尾崎さんがインタビューの中で、「自分の中で一番遠いところにあるものを取りに行くのが創作だ」という言葉をおっしゃっていて、これはニュースにも重なるなと思いました。

自分の中の多面性や、自分の中で、そのニュースの当事者や関係者だったり、対岸の誰かを探しに行くことは大切そうですね。

尾崎世界観さん:
探しに行くことは本当に大事ですね。

小川キャスター:
音楽活動にも重なる部分がありますか。

尾崎世界観さん:
すごくあります。これまで、何となくニュースは遠いものだという印象がありました。でも、何か思い切って、勇気を持って、ニュース一つひとつを伝えるじゃないですか。

誰かに寄り添おうと思えば、誰かを傷つける可能性もあるし。そして、音楽だってそうだと思います。音楽の“届いてしまいやすさ”みたいなものを、最近すごく怖く思っていて。ニュースもそうですよね。

でも、やっぱり伝えずにはいられないし、曲にせずにはいられないので。とにかく、わからないを認める勇気と、遠くを見る目は大事にしたいと思っています。

小川キャスター:
そうした中で作ってくださった今回の新曲ですが、視聴者の皆さんにはどんなふうに聞いていただきたいですか。

尾崎世界観さん:
もちろん寄り添いたいという気持ちもありましたが、逆に言いすぎないようにしました。まずは聴いてくださる方を信じる。余白をちゃんと作って、あとは埋めてもらえるような部分というか、そういうところを意識して作りました。

今は、ちょっとでも時間が空くと、もったいないとか怖いとか、そういう気持ちで隙間を埋めてしまいがちですが、いかにそこを我慢して、余白を作れるかが大事だと思います。

トラウデン直美さん:
その時間がないからこそ、わからないを認める時間も減ってしまうと思います。この余白は人生の時間でものすごく大事だと感じます。

小川キャスター:
考え込んだり、無理に答えを見つけない時間というのも大切にしていきながら、エンディングテーマを聴いていただけたらと思います。

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歌詞全文

「23、24」 作詞・作曲:尾崎世界観

23 時の⾓度に⾸を傾げて
何が正しい何がおかしいって探してる
⼀⽇の終わりに指を咥えて
何が嬉しい何が悲しいってただ⾒てるだけ

いつもなんかズレててイライライライラする
明⽇の前にこぼした今⽇の残りカス指で払う

ほらそうやっていつも⾸を傾げて
誰が良くて誰が悪いって⽐べてる
知ってるよそんなの誰でもなくて
全部⾃分の中にある だから苦しいんだろ

いつもなんかズレててイライライライラする
べつにどうでもいいけど⿊いくらい暗いでも未来

いつもなんかズレててイライライライラする
べつにどうでもいいけど⿊いくらい暗いでも未来

その⾓度でその速度でその気持ちで
わからないをわかるまで
その⾓度でその速度でその気持ちで
わからないをわかるまで
⽬指して
あれは 0 じゃない 24
⽬指して

その気持ちでわからないをわかるまで

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<プロフィール>
尾崎世界観
ミュージシャン・作家
2001年結成「クリープハイプ」ボーカル・ギター
小説家としても活動 芥川賞候補作に2度選出