ガザの惨状を伝えないイスラエルメディア

田畑:今の戦争状態に陥ったきっかけは、ハマスがイスラエル側に入って人質を取ったことから始まっていますが、そこからの報復行為が行き過ぎていると見えます。ガザに対して行っている攻撃の状況は、イスラエル国内でどう伝えられているのですか?
大治:イスラエルのメディアは、昔からそうなんですけど、驚くべきことにガザの状況などをあまり知らせないんです。背景には「自業自得」という感覚があるみたいです。映像もほとんど流しません。もちろんSNSでは流れていますが、SNSはその人がよく見ることしか出てきませんから、見たくない人には見なくていい環境になってしまっているのです。
大治:20年近く前に行われた選挙で、ハマスがパレスチナの政党の中で最も得票しました。今回の10月7日の攻撃でも一部の市民が攻撃に参加してしまっているという情報が繰り返し報道されたりしているんですね。そうすると、「パレスチナの人たちはハマスを選挙で選んだ人たちでしょう」「今回の攻撃でも参加しているよね」みたいな情報ばかりが報道されていて、食べ物がないとか、イスラエル軍に殺された、といったネガティブな情報はあまり流れていません。国民に”配慮”して、聞きたくないことを知らせない、という感じになっているところがあります。戦争になるとそうなっちゃうものかもしれませんが、どんどん偏ってくる。「パレスチナの人たちがかわいそう」みたいな話をちょっとでもテレビで言ったりすると、SNS上で炎上したり、発言者が脅迫を受けたり。国民感情との向き合い方は、非常に難しいですよね。
神戸:国際社会からすごくずれてきていますよね。
大治:ずれてきちゃうんですよね。それが紛争地の特徴でもありますし、特にイスラエルがトラウマというものに敏感な歴史を負っている部分と、両方あるでしょうね。
神戸:一体、どうしたらいいのか。出口が見えない状況の中で、停戦の話がやっと出てはきました。とりあえず、歓迎すべきことなんでしょうか。
大治:そうですね。ただ、トランプ大統領は興味を失うと急に交渉の場からいなくなっちゃうようなところもあります。また、要求しているのが「ハマスはガザから撤退しろ」とか、なかなかハマスは飲めない条件です。
神戸:イスラエルにとっては、希望がほぼ通った形の停戦要求なのでしょうね。
大治:やはりトランプ大統領側にいますので、そうですね。
◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)

1967年生まれ。学生時代は日本史学を専攻(社会思想史、ファシズム史など)。毎日新聞入社直後に雲仙噴火災害に遭遇。東京社会部勤務を経てRKBに転職。やまゆり園事件やヘイトスピーチを題材にしたドキュメンタリー映画『リリアンの揺りかご』(2024年)は各種サブスクで視聴可能。最新作のラジオドキュメンタリー『家族になろう ~「子どもの村福岡」の暮らし~』は、ポッドキャストで公開中。