イスラエル人が抱く「被害者意識」

神戸:こんなことが本当に今起きているのか、信じられないような現実なのですが、大治さんが書いた『「イスラエル人」の世界観』の帯には「なぜ、世界中から非難されても彼らは報復を止めないのか」という言葉がありました。この本は、イスラエル人がどのように世界を見ているか、歴史的にどんな民族意識を持っているか、よく知らないことが多かったので、非常に参考になりました。私たちがまず知っておくべきことは何なのでしょうか。
大治:日本で講演などをすると、「ユダヤ人はホロコーストを経験したのに、どうしてこういう戦争をずっと続けているの? どうしてこんなに残虐なの?」という質問をよくいただきます。日本では、広島も長崎もあったから、力による支配をやめよう、やっぱり対話ですよねという話をよく聞くわけです。ところがユダヤ人に「トモコの国はそうかもしれないけど、私たちは侵略戦争をしたわけでも何でもなく、ただ世界に離散して、少数民族として息を潜めて生きていただけなのに、虐殺された民族なんだよ」と。つまりホロコーストは、「国とか軍隊がないから、弱かったから起きた」と彼らはとらえているんです。強くなきゃいけない。軍隊を持ってなきゃいけない。国民1人ひとりがしっかりと脅威に目を向けなければならない」と。そういう発想なんですよ。
神戸:歴史的にそういう被害者意識があるということ、いろいろな経緯や旧約聖書からの流れだとかさまざまな情報がこの本には入っていたと思うのですが、「ホロコーストを経験して生き残った。命はどれだけ大事かということを知っていながら、どうして?」と思う人は多いでしょうね。
イスラエルの「光」と「闇」

神戸:非常に印象的だったのは、この本に「光のイスラエル」と「闇のイスラエル」という章が立てられていたことです。宗教に彩られた1年間の暮らしは美しく、聖書の中の世界を現実に生かしていくイスラエルの生活。それと全く反対の「闇のイスラエル」。石を投げた4歳児を拘束する。誰かが抗議の石を投げてきたら、その周辺の家屋を爆破していく「集団懲罰」。子どもたちもどんどん逮捕されている状況に驚きました。大治さんがこの本に込めた気持ちとは、どんなものだったんでしょうか?
大治:イスラエルを旅行したり、短期的に暮らしたりした人は、光の部分を見ることができるわけですね。外国人にも親切ですし、「ハイテク企業がすごいよ」とか「ワインが美味しいよ」とか、楽しそうなわけです。イスラエル人は幸福度も非常に高いのですが、兵役に行かないと見ない「闇」の世界もあるんです。イスラエルが占領し、パレスチナ人がたくさん住んでいるエリアに行くと、電気が通っていない、光がない、十分な食料を買えるような経済力がない。勝手に入ってきたユダヤ人入植者が暴力を振るう。小さなパレスチナ人の子どもたちが石をもっているだけでイスラエル兵が目をつけて追いかけてくる。そんな生活をしている。ユダヤ人であっても兵役に行って初めて見るような「闇」の世界がたくさんあるのです。私たち記者は、両方行ったり来たりできます。両方の世界をお知らせしないとイスラエルの考え方はなかなかわかりにくいだろう、と2つの世界を軸に描きました。
