ニューヨークを拠点に活動する画家・山口歴。代表作の「OUT OF BOUNDS」では、絵画の常識とも言える「キャンバス」の四角い枠を越え、筆跡自体が宙に浮いたような立体的な作品を制作している。今でこそ、世界に活躍の場を広げている山口だが、ここにたどり着くまでの道のりは、決して順風満帆のものではなかった。

“背水の陣”で臨んだ渡米から10年。「ぶっ飛ばして違う領域に行く」山口の原点と創作の思いに迫る。

■キャンバスの枠を越える「OUT OF BOUNDS」

山口歴「OUT OF BOUNDS(アウトオブバウンズ)」


いくつもの絵の具の筆跡が宙に浮いたように存在する。絵画の常識であるキャンバスという「枠」にとらわれない作品は「OUT OF BOUNDS(アウトオブバウンズ)」と名付けられている。

「キャンバスっていうのは僕の中では、はじめは自由に表現できる場所だったんですけど、もっともっと自由にアプローチするには、どうすればいいかと考えたときに、このスタイルに行きついたというか。ぶっ飛ばして違う領域に飛んでいく、誰も見たことがない、誰もやったことがないという意味で、アウトオブバウンズ」

■人生を変えた名画との出会い

フィンセント・ファン・ゴッホ「ひまわり」1888年



1984年、東京生まれ。「歴」という名前には“どんな困難にも負けないで乗り越えてほしい”という思いが込められている。
デザイナーの両親を持つ山口は、幼い頃から絵をかくことが好きで、自画像や油絵などが美術館に展示されることも多かった。しかし、高校時代になると、絵画教室にも通わなくなり、遊びに明け暮れた。そんな環境を変えるきっかけが、1枚の絵にあった。

フィンセント・ファン・ゴッホの「ひまわり(1888年)」だ。

「はじめて生のゴッホを見たときに、ものすごく絵の具がのっていて、実際にこんな風になっているのかと、そこから動けなくなってしまって、次の週に母親に頼んで、絵画教室にまた通わせてくれって」

山口は芸術大学への受験を決意し、再び絵画教室へ通った。しかし、そこで待っていたのは、絵と向き合わなかった時間にできた「技量の差」だった。

「夏期講習に行ってみたんですよ。そしたらレベルの高さに圧倒されちゃって、この3年間なにしてたんだ、みたいな感じで。もちろん浪人してしまって」

その頃の山口を両親はこう振り返る。

父・勝三さん
「またか、また落ちちゃったの?みたなね。しょうがないな、みたいな感じでね」
母・八千代さん
「ただ、その時期に、夫のアトリエに毎日通っててね」


父のアトリエで学んだ事がその後、活きることになる。

浪人生活は4年に及び、芸術大学への進学は断念した。友人たちが次々と就職を決める中、山口に残された選択肢はアメリカに渡る事だった。