同じ日に準決勝、決勝のハードスケジュールにどう対応するか?
昨年のDLパリ大会は予選を13秒15(追い風0.1m)で1位通過。13秒15は当時自己4番目、海外では自己最高記録と好調だった。しかし脚の痙攣で、目の前のチャンスにトライすることができなかった。詰めの甘さを痛感した。その悔しさを二度と経験したくない。何をすべきかを4年前のフライング失格と同じように考えた。
それが地力アップにつながり、今季は昨年よりもアベレージが上がっている。特に海外レースでは、昨年は13秒2台が多かったが今季は13秒0~1台に上がっている。
今回の東京世界陸上には、DLパリ大会の経験が直接的に役に立つ。昨年のパリ五輪は準決勝の翌日に決勝が行われるタイムテーブルだったが、東京世界陸上は準決勝と決勝が同じ日に、それも1時間40~50分の間隔で行われる。そのシミュレーションも今年のDLパリ大会で試している。1時間13分間隔で予選と決勝を走り、1位・13秒08(追い風1.4m)と4位・13秒08(追い風1.1m)だった。
具体的にはウォーミングアップの仕方を変更した。
「1本目の時に(力を)いっぱい使わないようにしました」と山崎コーチ。「ウォーミングアップを控えて、(少ないハードル台数を)1本跳んだくらいにしました。それでも13秒0台を出したのは成長です。ちゃんと動きましたね。13秒0台で走れば世界陸上の準決勝で落ちないと思います。ウォーミングアップは体がしっかり温まれば、何本やったからといって結果に違いはなくて、不安だから何本もやる選手が多いんだと思います。ただ、DLではできましたがこれが世界陸上になると、絶対に準決勝で落ちることはできません。心理的な部分も大きくなります」
昨年と今年のDLパリ大会を経験していることは、大きな判断材料になる。
周囲の期待よりも村竹自身の熱望が先に存在
村竹は本番直前になれば、メンタル面がより重要になると考えている。8月31日の取材で以下のように答えている。
「楽しみの方が大きいですね。2週間以上あるので一日一日、自分の体と技術を見つめ直して調整していきますが、ここからは付け焼き刃的なもの。今まで練習してきたことと、試合で得た経験を信じて臨むだけです」
悔しさを起点に、自分の弱さから逃げず、強い思いで競技に取り組んできた。そのプロセスを全力で行ってきたことに自信がある。だから直前になって、細かい部分は気にしないメンタルになれる。
12秒台を期待されていた今シーズン前半も、「自分で勝手に(12秒台を出したいと)プレッシャーをかけているので、今さら外から期待されても気になりません」と話していた。それは12秒92を出し、メダルの期待が一気に高まった今も同じである。
「色んな方からメッセージをいただくようになりましたが、むしろ嬉しいですね。期待に応えられたらもっと嬉しいと思います」
繰り返すが村竹は、悔しさを、自身を変えるきっかけにしてきた。パリ五輪は、フライング失格から熱望し続けてきた決勝進出という目標を達成し、大きな成果となった。その一方で0.12秒先にメダルがあったことが、悔しさを伴うモチベーションになった。
パリ五輪レース直後に、村竹は次のようにコメントした。「次の目標はもう、東京世界陸上でメダルを取ることです。ゴールして、結果を見て、すぐに『来年こそ絶対にメダルを取ってやる』と思ったので、そうですね、逆襲してやりたいと思います」
メダルへの村竹の思いがパリ五輪で生じ、そこからの過程でDLの経験や12秒台の記録を積み重ねてきた。日本のスプリントハードルにとっては歴史的なことになるが、村竹がメダルに挑戦することは特別なことではない。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)