「竹紙」を伝えることで社会を変えていく
現在、中越パルプ工業に竹のチップを納入しているチップ工場は、県内に6社ある。そのうちの一つ、姶良市にある国元商会には、農家などから受け入れた竹が集められていて、専用の機械でほぼ均一な大きさのチップが作られている。


ただ、中越パルプ工業が「竹紙」を作り始めた頃に比べると、新たな課題も出てきている。それは、農家の高齢化によって、竹が集まらなくなっていることだ。前述の通り、ピーク時には年間2万トンを集めていたが、現在は半分以下の約9000トン。農家も3割から4割ほど減少しているという。
薩摩川内市などの自治体では、竹を伐採した農家などに対して、1キロあたり3円の補助金を出している。それでも伐採が進まない中で、2024年度からはそれまで補助金制度がなかった鹿児島市も、1キロあたり6円の補助を始めた。竹の伐採は、今でも地域の課題であることに変わりはない。
一方で、中越パルプ工業にとっては、100%竹を原料にした「竹紙」を作っても、通常の紙に比べれば価格が高くなることから、たくさん売れるものではない。それでも、全国には取り組みに共感して「竹紙」を使った商品を独自に開発している企業も存在する。「竹紙」を作り続けることで、社会にメッセージを伝えることができると西村さんは感じている。
「伐採された竹の処分に困っているのは、社会の課題です。当時の先輩は課題に触れたときに、何もできることはないと思考停止するのではなく、『自分ごと』と考えて、自分たちでできることを探し出しました。
私が竹の受け入れや、『竹紙』の取り組みを社外に伝えているのは、もともとは会社のためでした。でも、今では伝えることによって、ほんのわずかでも社会が良くなるかもしれないと感じています。『竹紙』を見せることで共感してくれる人はたくさんいます。これからも取り組みを伝え続けることで、新たに行動を始める人が出てくれば嬉しいですね」
歴代の社員が紡いできた「竹紙」への思いは、環境問題への関心が高まってきた今、再び価値を持ちつつあるのではないだろうか。
(「調査情報デジタル」編集部)
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。