原発事故で帰還困難区域となった福島県浪江町津島地区の住民による裁判が大詰めを迎えています。これまでの裁判とは異なる新たな争点が注目されている一方で、ふるさとを取り戻すために別な動きも出てきました。原告側は「和戦両様の構え」で臨んでいます。
この裁判は、浪江町津島地区の住民が国と東京電力に対して、ふるさとを除染し、原状回復をすることなどを求めているもので、現在、二審の仙台高裁で審理が続いています。
原告団 佐々木茂副団長「この裁判も9月になって、だいたい結審を迎えるような最終コーナーに入ってまいりました。私たち原告団および弁護団の先生方は手を抜くことなく、最後まで元気いっぱいに戦うんだという強い意志を持って、きょうを迎えております」
6日に行われた裁判で、原告側は2006年と2008年に、当時の原子力安全・保安院がアメリカのNRC=原子力規制委員会から、「B.5.b(ビーファイブビー)」と呼ばれる原発へのテロ対策について説明を受けていたことを指摘したうえで、保安院がこれに基づいて「過酷事故対策を義務付けていれば、確実に事故は回避できた」と主張しました。
原発事故をめぐる裁判では、これまで主に津波の予見可能性について争われ、国の責任を認めない判決が続いています。
原告側は「B.5.b」をめぐる今回の主張を、津波の予見可能性に代わる新たな論点と位置づけていて、裁判所の判断が注目されています。次の裁判では、この「B.5.b」に詳しい専門家が証人として出廷する予定です。
原発事故の責任を問う、戦いが続いている一方で、新たな動きも出てきました。
小野寺利孝弁護士「『和戦両様』の構えでこの間ずっと戦ってきました。裁判ありきではない。判決ありきでもない。問題はそれをその戦いテコにして、故郷を取り戻す」
裁判の後に行われた集会で、原告側の代理人が仙台高裁に対し、和解を申し入れていることを明らかにしました。なぜ、和解なのか。集会の出席者からも質問が相次ぎました。
小野寺利孝弁護士「判決は賠償なんですね。企業責任を認めて賠償責任なんです。ただし、謝罪して金払って終わりってのは許さない。汚したものはきれいにして返すのが当たり前でしょ」
原告側の主位的請求は、ふるさとを除染し、元に戻すことを求める原状回復です。一審判決では、国と東電の責任を認め、賠償が命じられましたが、原状回復については退けられています。原告側は、和解の内容に原状回復を盛り込むよう求め、裁判所と協議を進めているということですがこれまで、国と東電は協議の場に出席していないということです。
原発事故の責任を問い、ふるさとを取り戻す。裁判は、この冬にも結審する見通しで、次の裁判は9月19日に行われる予定です。