「酒造りはやめたほうがいい」師匠の師匠からの厳しい言葉
―――口もつけずに、ですか?
口もつけずに。すごく落胆していたら長谷川社長が帰る時に「お前、酒造りはやめた方がいい」と言われたんです。とにかく「酒蔵がめちゃくちゃ汚い」と。「清掃っていうのは、お金がなくてもお前の情熱とかやる気ひとつでできるはずや。けれど、それすらできていないのにおいしい酒を造ろうなんて言うな!」と。
―――冷水をバッシャーンって浴びた感じですね。
「心を入れ替えて清掃はひたすらやります」と。だから「どうやったら良い酒が造れるのか分かりませんので、掃除はきちんとやりますから方法を教えてください」とすがりました。私には長谷川社長しか頼れる人がないわけですから。そしたら長谷川社長が「わかった」と。「俺が毎年、酒蔵を巡っているから、お前は運転手でついて来い」と。「そこに同席して全国の良いものを勉強しろ」と言われました。
―――それ以降、生み出される酒は明らかに変わりましたか?
変わりました。そして我々の哲学である「清く正しい酒造り」という考え方が生まれました。「みむろ杉」の酒造りが分かり、みんなが酒造りにのめり込めるような言葉ってなんだろうとずっと自問自答していて、舞い降りて来た言葉が「清く正しい酒造り」なんです。うちは全ての米を10kgずつ洗うのが特徴で、かなり時間はかかって体力的にもしんどいですが、酒にとっては絶対この方が良いと思ってやっています。だから毎年、米を洗う回数は1万回を超えます。「おいしい、おいしくない」の判断じゃなくて、酒造りにおいて「正しいか正しくないか」で判断して酒造りをして、いかに正しいことをやっているかを追求していっている集団がうちの蔵です。