クラウドでも“語り部”との対話が可能に

実は「Talk With」の活用は、さまざまな分野に広がっている。エンターテインメントでは、某アイドルグループのファン向けに、メンバーの映像と、スマートフォンやPCで会話ができるサービスが有料で提供されている。

「Talk With」のデモ画面

また、ヘルスケアの分野では、発話機会の創出や介護施設の負担軽減を目的に、歌手の小林幸子さんや孫世代の子どもたちと会話ができるサービスに使われているほか、病院での問診や、文京区の行政案内業務などで実証実験も行われている。この他、観光ガイドやテーマパークの案内では実際に導入され稼働している。

こうした利用も進める一方で、シルバコンパスでは「語り部継承プロジェクト」として、50人の語り部の話を対話型の語り部システムに残す活動を続けている。かながわ平和祈念館では、今年度新たに1人の語り部の話を収録し、完成次第西岡さんの映像と一緒に公開する。

さらに、システムのクラウド化も実現した。西岡さん以外にも、長崎で被爆した経験がある人の語り部講話を収録。PCなどを使ってクラウドで視聴して、対話ができる平和教育教材として、今年8月9日から期間限定で無償公開する。申し込みがあった全国の小・中学校、高校に、パスワードを提供して教室で視聴してもらうという。

阿部取締役は、国や自治体、遺族会の予算を活用しながら、持続可能な形で語り部の映像の収録を進めていきたい考えだ。

「戦争の証言ができる世代の方から話を聞くには、もう限られた時間しかないですよね。私たちはあくまで体験者が語ったことを映像で残したい。語り部をされている方の今の思いを残したいと思っています」

戦後80年は、戦争を10代で体験した人々が全員90歳を超えるなど、語り部活動の継続にとって岐路となる年と言える。このタイミングで実現した、語り部の映像と対話ができる体験は、今後戦争の記憶を次世代に伝える上で重要な手法の一つになりそうだ。

(「調査情報デジタル」編集部)

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。