ドラマ劇伴で新たな引き出し 挑戦を経てバンド活動の糧に

長谷川:陣内のテーマは今回、内澤さんご本人のボーカルで作っていただきました。
内澤:もともとは女性や英語をしゃべれる方とかをイメージして話が進んでいて、デモの段階で渡したら、僕の声でもいいんじゃないか説が出て…。
長谷川:内澤さんの声“が”いいんじゃないかと。最初女性の声っておっしゃっていたんですけど、せっかくだから内澤さんがいいと思って。
内澤:andropでも今までやっていないことだったので、初めて聴く声になると思います。なので、今回はいろいろ僕にとっての“初挑戦”が詰まっていますね。そもそも、一つの作品やものづくりの中で、これだけいろいろなジャンルのものを詰め込んだことがなかったです。EDMから、クラシックから、フォーク、カントリー、ジャズ、ブルース、ミクスチャー、ロックとか。テクノみたいなのも入っていますし、すごい振り幅の広い音楽を作ったなって。
長谷川:そうですよね。本当に、劇伴作家としての内澤さんの能力を、世に知らしめる作品になったと思います。あれだけ広いジャンルを、1曲1曲のクオリティーも高く書ける人は、そうはいないです。
内澤:今回、自分がいろんな音楽が好きでよかったなと思いましたね。これまで十何年かの音楽活動の中で、いろいろ、ちょっとずつやってきたものを、ようやく一つにまとめることができたなっていう感覚がありました。集大成のような。だから「これまでの経験全てを音に注ぎました」と(リリースの)コメントにも書かせてもらったんですけど、まさにその感覚でした。
長谷川:もし今後、劇伴のオファーがあったらどうしますか?
内澤:いやあ、もうやらないですね(笑)。
長谷川:しばらくですよね?(笑)。
内澤:いや、でも本当にもう全て出し切ったくらいな感覚です。長谷川さんと出会った頃には、こんなことは多分できなかったですし、今、もう一度長谷川さんと一緒にっていうタイミングだったからこそ、できたと本当に思いますね。
長谷川:普段は、僕は監督にできるだけ寄り添ってスタッフィングしているつもりではあるんですが、今回はだいぶエゴを出しました。劇伴やキャスティングも、VFXも、ナレーションも、自分で決めさせてもらいました。
内澤:長谷川さんが今回、各所にすごい思いを詰めていらっしゃるんだなっていうのは、僕もはたから見ていて思っていました。
長谷川:僕は今回、レコーディングの時に内澤さんが必ず「andropというバンドをやっています、内澤崇仁です」とおっしゃっていて、内澤さんの中で“職業”はandropなんだって思ったのは、見ていてうれしかったですね。
内澤:ああ、本当ですか。
長谷川:はい。個人の「内澤崇仁です」とは言わずに、「andropというバンドをやっています」と言うのが、なんかすごくかっこいいというか、すてきだなと思いました。
内澤:それはほんとに、自然とですね。「ただのバンドマンです」っていう感じで言っているんだと思います。
長谷川:内澤さんは、全然偉ぶるところとかないじゃないですか。
内澤:いや、偉くなりたいっすね(笑)。
長谷川:ははははは。この間もそうおっしゃっていましたね。いや、もう十分すごいです。でも、プライベートで飲みに行ったらイメージ変わったりしますかね?
内澤:どうですかね? もしかしてすごく酒癖が悪いかもしれませんよ(笑)。
長谷川:ぜひドラマの打ち上げにも来ていただきたいですね。演奏するところも用意したいです。
内澤:ははははは。じゃあメンバーも呼ばなきゃ。出演者の皆さんそれぞれのシーンの曲を、全編奏でたりして。
長谷川:いいですね。演奏してもらったら、僕は多分そこで泣いていると思います(笑) 。今回の作品が終わったら、内澤さんは今後どのような活動を予定されているんですか?
内澤:8月にはandrop初の海外ツアー、全国ツアー、さらに地元青森での周年ライブも控えています。劇伴に集中していた分、今度はバンドに全力で向き合いたいと思います。今回、自分の音楽人生の中で、相当レベルアップさせてもらった感覚がすごくあって、いろんなことに挑戦させてもらいましたし、こんなことまだ自分ができるんだって引き出してもらったような気がするんですよ。
長谷川:ほんとにすごかったです。
内澤:それって自分の音楽人生の糧になりますし、もちろんバンド活動にも絶対に生かしていきたいなっていうふうに思っていて。『DOPE』で出会った音楽関係の方たちもいるので、その方たちとも、また音楽を一緒に作ってみたいなと思ったりもしています。
長谷川:オーケストレーションのアレンジャーの方や、ピアニストの方も、そうですか?
内澤:そうですね。ピアニストの方は、普段バンドでは、もっとシンプルなワンコードのものとかも多いんですよ。すごい才能もある方なので、今回ようやくその方の素晴らしさを、より生かすことができたなと思いました。
長谷川:そうだったんですね。
内澤:長谷川さんが作ってくださった出会いでもあるので、それは生かしていきたいというか、生きていくと思います、勝手に。
長谷川:それはもう、内澤さんの才能のたまものですよ。僕も、それを受けて、しっかり形にしないと。
内澤:そうですね。強く、そこはお願いします。楽しみにしています。