舞台あいさつで語られたこと

特撮好きと言えば、RKBでラジオドラマ『空想労働シリーズサラリーマン』を作った冨土原アナウンサー。『サラリーマン』も会場に登場し、ちゃぶ台を持ってきました。登壇あいさつの間、ちゃぶ台の前にサラリーマンが座っているのはなぜだと思いますか?『ウルトラセブン』でメトロン星人がちゃぶ台を挟んでウルトラ警備隊のモロボシ・ダンと向かい合って対話するシーンへのオマージュですね。

特撮を愛してやまないRKB冨土原アナウンサー(右)

冨土原:『坂本九ショー』は、当時TBSで通常のテレビ歌謡ショーを撮っていたところの実相寺作品ですよね。

佐井:そうです。当時実相寺さんはADからディレクターに上がったぐらいで、単発シリーズドラマ『おかあさん』の監督をしながら、同時並行的に毎週夜7時にやっていた音楽番組『7時にあいまショー』の演出もしていました。この枠の中で、坂本九の特集回を実相寺昭雄が演出したのが『坂本九ショー』です。

冨土原:ご覧になった皆さんも、「ん?この映像は何だ?」と思った方が多いかもしれません。いわゆる歌謡ショーの文脈でいうと、よく分からない映像がずっと続くというか、前衛的ですよね。

佐井:はい。当時のテレビのカメラはVTRで撮っていました。フィルムカメラじゃないのですごく大きい。坂本九が歩くところを手持ちで追いかけていく映像が出てきました。「おそらく当時のテレビのカメラを解体していたんじゃないか」と。バズーカみたいな感じでもって、手持ちカメラで撮影した。スタジオとかに常設されている、みんなで使う機材です。それを勝手に1ディレクターの采配で解体してしまう。「それは干されるよな」というのが、正直な会社員としての実相寺昭雄に対する評価ですね。

佐井:すごくADとして優秀だったから、ディレクターになるのが速かったけれど、音楽番組の生中継をやっても演出させると変なものを撮る。ただ、非常に人当たりが良い。上司には好かれる。企画は通り、変なものを撮る。それを2~3年間繰り返して、仕事がなくなるんです。

佐井氏:結局、演出部から、新設の映画部へ。円谷英二氏の長男、一(はじめ)氏がTBS映画部で、映画と同じようなスキームでテレビ番組を作ろうとしていました。干されていてうだつの上がらなかった実相寺昭雄を自分の部下に引き入れようとしたのです。「円谷プロで今度、新しい『ウルトラQ』という番組をやるから」と。干されていた人が、ちょっと久しぶりに撮れた。それが『ウルトラQのおやじ』という番組になります。

『おかあさん』シリーズ「あなたを呼ぶ声」の出演者=(c)TBS

映画祭ではこのほか、母親を主題にした1話完結のスタジオドラマシリーズ『おかあさん』も6本が上映されています。ほんわかした「おかあさん」というイメージから連想するものとは、全然違いました。貧乏アパートに囲われた二号の娘と、それにすがる強欲な母。そこに隣人の学生やヒモも絡み、感情むき出しのコメディが展開するという回もあります。見ましたけど、これもすごかったです。

TBSレトロスペクティブ映画祭は、名古屋市のシネマスコーレで7月4日(金)まで。福岡市のKBCシネマも7月3日(木)までで、最終日には『ウルトラQのおやじ』と『坂本九ショー』が上映されます。大切な機会ですので、足を運んでいただけたら得るものがあるのではないでしょうか。

◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)

1967年生まれ。学生時代は日本史学を専攻(社会思想史、ファシズム史など)。毎日新聞入社直後に雲仙噴火災害に遭遇。東京社会部勤務を経てRKBに転職。やまゆり園事件やヘイトスピーチを題材にしたドキュメンタリー映画『リリアンの揺りかご』(2024年)は各種サブスクで視聴可能。5月末放送のラジオドキュメンタリー『家族になろう~「子どもの村福岡」の暮らし~』は、ポッドキャストで公開中。