■割れ目に落ちる危険も 氷河上のトラブル処理は命がけ

3日後、再びフライトのチャンスが訪れ、今回は目的地にたどり着くことができた。まずはコーガンさんがザイルをつけてクレバスがないかチェックする。すると、スティックがすっと吸い込まれた。実は、このステーションを設置したコーガン氏の恩師はクレバスに転落して亡くなっている。裂け目は併せて二つ見つかったが、幸いどちらも小さいものだった。

外に出てみると強風が吹いている。風速は22ノット、約11メートルほどだ。

問題の観測ステーションを調べてみると、原因は当初予想されたバッテリーではなくプログラムの不具合のようだ。再インストールを試みる。街のオフィスで起きていれば極めてシンプルなトラブルシューティングだが、ここでは命がけだ。

■温暖化が加速させる鉱物資源の“争奪戦”

今、グリーンランドに注目しているのは研究者たちだけではない。温暖化はグリーンランドに眠る豊富な鉱物資源の争奪戦を加速させている。

ブルージェイ・マイニングCEO ボー・スティーンスガードさん
「グリーンランドはニッケル、銅、コバルト、プラチナ、チタン、金、何でもある。社会のグリーン化、再生可能エネルギー、バッテリー生産のために大量に必要になってくるものも多い」

イギリスの会社、ブルージェイ・マイニングはイルリサットに拠点を構え、現在は北部でチタン系の鉱物を採取する計画を進めている。グリーンランドには脱炭素社会のカギとなるような鉱物資源がたくさん眠っていて、その資源開発を容易にするのもまた気候変動だとスティーンスガードさんは話す。

「遠隔地で寒いグリーンランドは鉱物資源の探索や開発に労力がかかります。温暖化が進めばそうした作業や船での出荷もしやすくなります。その面だけから言えば、グリーンランドにとって温暖化はプラスです。地球全体にとってはマイナスですけどね」

イルリサットの対岸に見えるディスコ島では需要が高まるニッケルやコバルトの産出が見込まれ、ジェフ・ベゾス氏や、ビル・ゲイツ氏らが後押しするファンドが開発を支援している。ニッケルの世界最大の鉱床はロシアにある。NATO創立メンバー、デンマークの自治領であるグリーンランドの資源は欧米にとって重要だ。

スティーンスガードさん
「ニッケルをロシアからではなく、欧米といろんな意味で近く、政治も安定しているグリーンランドから入手できるというわけです」