6月22日、150日間の国会が閉幕した。少数与党で臨んだ今国会は石破総理にとって綱渡りの日々だった。
「103万円の壁」「高額療養費制度」「商品券問題」「トランプ関税」「コメ価格高騰」「年金改革法案」「減税の是非」など、様々な課題・問題が浮上し、石破総理は判断を迫られてきた。
この中では、一面において石破総理が「正論」を唱えているように見えても、国民の反発を招き方針を転換する場面もあった。
自民党内で「正論」を唱え続け、疎まれながらも国民からは支持を集めてきた石破総理だが、なぜ国民に「正論」が届かなくなったのだろうかー
「泣かれちゃったよ・・・」高額療養費制度をめぐり3度の方針転換

前半国会で大きな焦点となったのが、高額の医療費がかかった場合に患者の自己負担を抑える「高額療養費制度」だった。
当初、政府は「現役世代を含めた被保険者の保険料負担の軽減を図る」として、高額療養費制度の自己負担額の上限を今年8月から段階的に引き上げるとしていた。だが、がん患者の団体などから、負担引き上げが受診抑制や治療断念に繋がるなどと問題視する声が上がり、この問題は国会でも大きな争点となった。
1月31日の衆議院予算委員会で、立憲民主党の酒井菜摘議員が訴えたのは20代女性患者の切実な声だった。
「多くの医療費を支払うことはできません。死ぬことを受け入れ、子供の将来のためにお金を少しでも残すほうがいいのか、追い詰められています」
自らもがんの闘病経験がある酒井議員が、涙声でがん患者の声を訴えると会場からは自然と拍手が沸き起こった。そして予算委員会が終わり、官邸に戻った石破総理は周囲に対し「泣かれちゃったよ、制度の見直しはどうにかならないか?」と思いを伝えた。だが、総理周辺は「日本の医療保険制度を維持していくためには、見直しは必要だ」「気持ちは分かるが総理は優し過ぎる」などとの声が上がり、いったん方針は維持された。非情にも見えるこの決断について総理周辺はこう語る。
「がんになった時に備えるために、民間のがん保険もある。国が面倒をみることになれば、がん保険は不要ということになるし医療保険制度が破綻する」
少子高齢化が進む中において、“医療保険制度を維持していくためには、国民が相応に負担し、備えをする必要がある”というのは一面においては「正論」とも言えそうだが、当事者の声を十分聞くことなく制度を見直すことを決めた過程も含め、批判の声はやまず、3度の方針転換の末、石破総理は高額療養費制度の見直しを凍結することを決めた。
「給付」か「減税」か・・・参院選の最大の焦点に 語られぬ課題

政府は参議院選挙を7月3日公示・20日投開票とする日程を閣議決定した。最大の焦点となっているのが物価高対策であり、与党が掲げる「給付」と野党各党が掲げる「消費税の減税や廃止」に有権者の関心は高まっている。与野党共にアピールポイントとしているが、副作用(負の側面)を語ることは少なく、有権者に対し、判断材料が十分に提供されているとは言い難い状況だ。
まず、減税については一般論として、以下のことが指摘されている。
【消費税減税】
◎メリット
・低所得者ほど家計に占める食費の割合は高いため、特に低所得者の生活支援となる。他の先進国も食料品に対する税率が低い傾向にある
・消費税は日々の買い物で発生するため、消費減税は痛税感・国民の不満を抑える効果もある
・消費を伴うため、給付に比べ貯蓄に回らず、景気刺激効果がある …など
確かに物価高の大きな要因が食料品の価格上昇である以上、食料品にかかる消費税を減税するのは有効な経済対策にもなりうる。
ただ、従来のデフレ局面であれば減税により景気を刺激することも有効だが、今は物価高であり、景気を刺激することは更なるインフレ・物価高に繋がりかねないとの指摘もある。今の経済状況で景気刺激を促す手法を取るべきかどうか意見が分かれるところであり、精緻な議論が必要ではないだろうか。
また、システム改修にも時間がかかるなど即効性は給付に比べて乏しいという問題もある。
一方、給付はどうだろうか
【給付】
◎メリット
・減税に比べ法改正の必要がなく即効性がある
・予算が企業などに使われず、全てを国民が直接受け取ることが出来る
・低所得者や子どもなど、ターゲットを絞った手厚い支援をすることが出来る …など
財源が限られる中、目の前の物価高に対し、スピード感を持って必要な人に手厚い支援を行き渡らせるという意味では給付も有効な経済対策だろう。
ただ、給付は貯蓄に回されやすい面もある。国家財政が厳しい中、今すぐにお金が必要でない人にまで一律で給付をする必要があるのか、選挙前のバラマキのそしりは免れない。