「縦割り」と「横割り」の中国社会
なぜこのような組織的な不正が中国人で発生するのでしょうか。中国社会は「縦割り社会」であり、同時に「横割り社会」であると私は考えています。
「縦割り」とは、共産党、共産党幹部、そして習近平主席を頂点とするピラミッド構造です。14億人の国民がこのピラミッドの下から上の階層に上がるために、何をすべきかという意識が強く働きます。
もう一つの「横割り」は、「縄張り」という言葉に近いかもしれません。自分たちの権益をどう維持し、その範囲をどう広げるか、さらにはその範囲の中で「メンツ」という自身の権威をどう保つか、という話です。「縦割り」「横割り」の社会で生きていく上で、欠かせないものの一つが“お墨付き”なのです。
この“お墨付き”を求める意識は、日本人と比較してはるかに強いように感じます。その中で、資格が大きなウエイトを占めます。TOEICは世界共通で認証されているテストであり、その価値は中国でも世界中でも通用します。
そして、そのTOEICが日本で受験できる点がポイントでしょう。資格審査が極めて厳しい中国に比べ、日本の場合は「そこに携わる人の良心に委ねる」という部分が大きい気がします。これは日本の優位性を示すものではなく、それぞれの歴史や国家体制の違いによるものです。
TOEIC試験においても「不正を許さない」という大原則はありますが、「受験者の良心を信じる」という意識のもとに運営されてきたはずです。それが今回、一部の中国人受験生によってカンニングという形で悪用されたように思えます。
日本を目指す中国人留学生と、今後の共生
米中関係が複雑な局面を迎える中、日本を目指す中国人留学生は増えています。文部科学省が所管する日本学生支援機構によると、日本にいる外国人留学生のうち、中国出身者は国・地域別で最も多く、4割超を占めます。
コロナ禍以降は減少傾向でしたが、2023年度からは再び増加に転じました。円安の影響で欧米への留学に比べて割安感があること、そして治安の良さも大きな要因です。今後も日本を目指す中国の若者はさらに増えるのではないでしょうか。
しかし、このようなカンニングのような不正が起きると、ただでさえ「良い」とは言えない中国へのイメージ、日本人が抱く中国人へのイメージのさらなる悪化につながるのではないかと懸念されます。
しかし、このような不正を働く中国人は全体のごくごく一部に過ぎません。「だから中国人は…」と決めつけてはいけません。中国人を含む外国人と共生していかないと、日本社会の今後は成り立たないのです。地方に住む私たちこそ、直接その影響を受けることになります。
何より、自分たち以外、外国人を遠ざけようとする意識が何をもたらすのか?今、アメリカで起きていることを見るまでもなく、それは自らの狭隘な、心の狭さを映し出しているだけに思えます。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める