6月22日、サッカーJ2・ベガルタ仙台のホーム戦。仙台のチームカラー“ベガルタ・ゴールド”に染まったスタジアムのスタンドに、決して合っているとは言えない"緑色"の横断幕が掲げられた。J3・高知から加入したFW小林心の「高知仕様」の横断幕で、この“弾幕”が仙台で掲げられるまでに至ったストーリーを紹介する。

横断幕は、小林心が高知ユナイテッドSCに在籍していた時に作り始められた。高知は2024年シーズンまでアマチュアのJFLを戦っていて、JFL時代のクラブは、選手全員の横断幕を揃えることが金銭的に厳しい状況だった。

そんな中でもクラブは奮闘し、2024年末の「J3・JFL入れ替え戦」で勝利して、高知県勢として初めて悲願のJ3参入を決めた。かつて“野球王国”、“サッカー不毛の地”と言われた南国・土佐に“Jクラブ”が誕生し、今、高知県では着実にサッカーファンが増えつつある。こうした機運の高まりも後押しし、協賛会社が高知に所属する全選手の個人横断幕を作成したのだった。

その高知を牽引してきたのが、FW小林心だった。流通経済大学を卒業後、2023年に高知に加入。大学時代は「どのJクラブからも声がかからなかった」というFWは、高知で奮起すると"得点力"を武器に実力を付け、JFLだった昨シーズンはチームトップの8得点。高知のJ3参入に大きく貢献した。

J3参入後の今シーズンも得点力は健在で、第14節を終えた時点でJ3トップの10得点。4月のリーグ戦3試合では5得点を挙げ“月間MVP”にも輝いた。名実ともに“高知のエースストライカー”へと成長し、高知でのさらなる活躍が期待されていたが、6月2日に、J2・ベガルタ仙台への完全移籍が発表された。

横断幕の完成は、小林心の試合出場に間に合わなかった。