日本企業での成功事例
片や日本――。経済産業省によると日本のエンジニア不足は既に40万人近く、2030年には79万人に達すると言われていますが、先ほど言ったように、そもそも少子高齢化が進む中、人材数は横ばいで、到底このギャップを埋めることはできそうにありません。
実はこうして私がインド人材の話をしているのは、身近にそのレベルの高さと活躍ぶりを見ているからなんです。いま私は、毎日新聞のグループ会社にいますが、そのIT部門を支えているのがIITの卒業生たちです。8年前にインターンシップで当社に来た4年生2人が、期間中のわずか3か月で、グループ各社で使う名刺管理システムの原型を作り上げました。
当時は第一次トランプ政権で、今と似た状況だったこともあり、なんと当社を就職先に選んでくれて、今は製品として700社以上にご利用いただいている法人向け名刺管理アプリ「ネクスタメイシ」を、ゼロから開発してくれました。彼らには全くなじみのなかった日本語の、漢字も仮名もローマ字も混じる名刺を読み込んでデータ化する仕組みですが、今や判読率は95%以上。それもこれも彼らの高い技術、特に人工知能(AI)でアプリが自動学習する機能のおかげです。
その後も、彼らを慕う後輩らが就職してくれて、現在IIT出身の社員は6人。今年も4人が今、当社でインターンシップを受けています。最初こそ言葉の壁はありましたが、何せ天才ですから(笑)、社員が英語に慣れる前に、彼らのほうが日本語に慣れて、リーダーはもう日本語ぺらぺら。しかもエンジニア同士ならIT用語は共通ですから、日本人社員も不自由なく一緒に仕事しています。
そんなIITには世界中の有名企業が採用に殺到し、GoogleやAmazonなど大手から決まっていきますが、インターンシップで行った先の企業に就職を希望してくれれば、それで決まります。いわば合法的な青田買いと言いますか(笑)、アメリカが排他的になっている今、「安全で暮らしやすい」と彼らが言う日本は、またとない採用のチャンスだと、これは身をもって感じます。当社はGALK(ガルク)という仕組みを使いましたが、ネットで「インド工科大学」「インターンシップ」と検索すれば、仲介企業が出てきます。
物価高は進み、暗いニュースが多い昨今ですが、うつむいていたら運も逃げます。研究者もIT人材も海外のトップレベルが採用できる、このチャンスを逃す手はありません。政府もぜひ、大学や企業の人材獲得を支援してほしいと、予算をかけてほしいと切に願います。だって、そこからGAFAのようなユニコーン企業が生まれるかもしれないんですから。
◎潟永秀一郎(がたなが・しゅういちろう)

1961年生まれ。85年に毎日新聞入社。北九州や福岡など福岡県内での記者経験が長く、生活報道部(東京)、長崎支局長などを経てサンデー毎日編集長。取材は事件や災害から、暮らし、芸能など幅広く、テレビ出演多数。毎日新聞の公式キャラクター「なるほドリ」の命名者。