アメリカの中央銀行であるFRBは11月2日、政策金利を通常の3倍にあたる0.75%引き上げることを決めました。異例の「3倍速利上げ」はなんと4回連続のことで、なかなか収まらないインフレを抑え込むためです。今回の0.75%利上げは、すでに市場に織り込まれており、サプライズはありませんでした。関心は、次回12月の会合で利上げ幅が縮小されるかどうかに移ってました。

■次回の利上げペース減速に言及

これについてFRBは声明文で、引き締めという金融政策の効果が物価に浸透するには時間がかかることをあげて、「今後の利上げペース決定には時間差を考慮する」と明記しました。パウエル議長自身も記者会見で「利上げペース減速の時期は、早ければ次の会合、もしくはその次の会合かもしれない」と、初めて利上げ減速に言及しました。

現在のアメリカの政策金利は、3.75%〜4%です。仮に12月の会合で利上げ幅が0.5%に縮小されれば、政策金利は4.25~4.5%となり、FRBが9月に示した今年年末の見通しである4.4%に並びます。本来なら、市場はこれを聞いて安心するはずでした。ところがニューヨーク株式市場のダウ平均株価は、パウエル発言が始まると急落し、11月2日は506ドル安、翌3日も146ドル安と下落を続けました。

■「終着駅」はより遠く

その理由は、パウエル議長が、その先の利上げ継続に踏み込んだからです。パウエル議長は、どこまで利上げを続けるかについて、「データを踏まえると9月に示した到達点より高い水準まで利上げする可能性がある」と述べると共に、利上げの停止についても「考えるのは時期尚早」と一蹴したのです。

最終的な利上げの到達点は英語で「ターミナル・レート」と呼ばれます。ターミナルですから「終着駅」というイメージです。9月時点でFRBは来年の金利見通しを4.6%としていましたので、これまで市場は、ターミナル・レートを4%台半ばと信じていました。それなら12月に0.5%、多くても来年1回の0.25%で「終着駅」に到着します。

しかし、パウエル議長の今回の発言を聞けば、「終着駅」がどのぐらい遠いところになるのか(=金利水準)、また、いつ「終着駅」に到着するのか(=利上げ終了時期)、いずれも「データ次第」ということになってしまいます。市場では不安心理が急速に高まり、長期金利は上昇し、アメリカの大手金融機関からはターミナル・レート5%台という予想も出ています。

■インフレ抑制はいつ確認できるだろうか

結局のところ、インフレが収まって来たというデータがないと決められないという当たり前の結論です。アメリカの9月の消費者物価は、総合指数で8.2%上昇と、一時より落ちたとは言っても非常に高い水準です。食品とエネルギーを除くコア指数では6.6%とむしろ上昇率が加速しています。インフレの背景にある雇用を見ても、求人数は衰えず、賃金上昇も続いています。「時間差」を考慮してもなお、インフレ抑制の目処は見えているとは言い難いのです。

直面しているコロナ後のインフレには、様々な要因があるでしょうが、感染を恐れる労働者が労働市場から自主的に退出したといった人々の「行動変容」や、サプライチェーンの混乱による部品不足や物流寸断など、多くの「供給制約」も大きな原因になっています。

利上げという「需要抑制」がインフレに効くことは間違いありませんが、それがどこまで効果を及ぼすのかという、根源的な命題が目の前に提起されていると言えるでしょう。
インフレが収まらず、利上げが続けられ、過度な景気後退を招く「オーバー・キル」が、最悪のシナリオです。インフレ抑制のデータがいつ出てくるのか、出てこないのか、今回の利上げ局面は大きな分水嶺に差し掛かっています。

播摩 卓士(BS-TBS「BiZスクエア」メインキャスター)