超人たちが34年ぶりに東京へ!今年9月に開幕する「東京2025世界陸上」を前に、これまで歴史に名を刻んだ伝説のアスリートたちを紹介する。
ホップ、ステップ、ジャンプ。3歩の跳躍で距離を競う三段跳。男子の世界記録は、30年前に作られた18m29で、イギリスのジョナサン・エドワーズが樹立した。この記録は現在も破られておらず、ウサイン・ボルトの100mやマイク・パウエルの走幅跳と並び、陸上界で燦然と輝く大記録のひとつと言われている。敬虔なクリスチャンであり、研究者の顔も持っていたエドワーズは、100mの選手並みのスプリント力がありながら、決して筋骨隆々というタイプではなかった。そんなエドワーズはなぜ、30年間破られない大記録を打ち立てることができたのか・・・。

人類初〝18m超え〟30年前の世界陸上で…
18m。野球で言えばピッチャーからホームベースまでのおおよその距離であり、地下鉄丸の内線の車両1両分とほぼ同じ。そして、当時CMでも話題となった、渋谷・パルコ前のスクランブル交差点の横断歩道もこの長さだ。
エドワーズは、95年世界陸上イエテボリ大会で金メダルの最有力候補だった。なぜなら直前の大会で追い風参考ながら18m台を何度も記録していたからだ。目の肥えた北欧の陸上ファンたちは、29歳の白人アスリートに熱い視線を注いでいた。その観客に手拍子を求めた後、エドワーズはすぐに1回目の助走に入った。18歩目の左足で踏み切り、続けて左足、さらに右足で跳躍し、吸い込まれるように砂場の前方に着地した。立ち上がった瞬間、エドワーズは大記録を確信し両手を大きく広げた。人類が初めて3歩で18mを越えた瞬間だった。18m16、自身の世界記録を更新しての新記録誕生に、スタジアムは大きな歓声に包まれた。
クリスチャンで研究者、100m10秒台の走力も・・・
エドワーズは敬虔なクリスチャンとしても知られていた。91年世界陸上東京大会では、三段跳の予選が日曜日だったため欠場した。“安息日には戦わない”という宗教上の理由からだったが、その後、競技をしながら信仰心を貫くことができると柔軟に考えられるようになり、日曜日の試合にも出るようになった。大学卒業後は遺伝子の研究職に従事していたこともあった。その後トップアスリートとなり、競技中心の生活に変えたという。100m10秒48の記録を持つなど元来持っていた高い運動能力と、スピードを生かす跳躍技術、そして競技へ取り組む真摯な姿勢、これらによってエドワーズは誰もなしえなかった三段跳の歴史を大きく塗り替えていった。
2回目に生まれた『18m29』
「1回目に18mを出せたので、リラックスして跳ぶことができた。2回目は精神と肉体が見事に一致したと思う」
試合後、エドワーズ本人がこう語っていたように、観客たちがざわめく中、冷静に2回目の試技を迎えた。条件は絶好の追い風1.3ⅿだった。スピードに乗った助走から、18歩目の左足で踏み切ると流れるような跳躍を見せた。まるで川面を石が滑る、水切りのような美しいジャンプだった。着地の後、今度は静かに両手を広げたエドワーズ。18m29。鳴りやまない大歓声の中、スウェーデン・イエテボリの青空の下で歴史的な記録が誕生した。
エドワーズのこの日の跳躍、1回目と2回目を比較すると、ホップ、ステップ、ジャンプは次のようになる。
1回目(18m16) 6m12/5m19/6m85
2回目(18m29) 6m05/5m22/7m02
2回目の第1跳躍、ホップの数値が小さくなっているのは、踏切板につま先が少し乗るくらいの位置で踏み切ったから。ポイントは、2回目の第3跳躍7m02。このジャンプが大きく伸びたことが大記録につながったといえるだろう。

その後エドワーズは、2000年シドニー五輪で金メダルを獲得、翌年の世界陸上エドモントン大会も制した。跳躍種目を始め男子の世界記録保持者の多くは黒人選手が占めており、エドワーズが樹立した三段跳のワールドレコードは、陸上界に長い間異彩を放ち続けている。
東京2025世界陸上 男子三段跳「この選手に注目!」
◆ヒューズ・ファブリス・ザンゴ(32、ブルキナファソ)18m07
世界陸上 2023年ブダペスト 金、2022年オレゴン 銀、2019年ドーハ 銅
五輪 2021年東京 銅、2024年パリ 5位
※ワイルドカード
◆ヨルダン アレハンドロ・ディアズ フォーチュン(24、スペイン)18m18
世界陸上 2019年ドーハ 8位
五輪 2024年パリ 金