■レコードの製造を支える世界で唯一の企業

レコード盤を大量に作る上で必要な「ラッカー盤」を世界で唯一生産しているのが、日本の企業だ。南アルプスの麓、自然豊かな長野県宮田村にある「パブリックレコード」は、1976年の創業当時からラッカー盤を生産してきた。

ラッカー盤はレコードを作るための型材のようなもので、レコードを作るときに最初に音を刻み込むものだ。音の溝が刻み込まれたラッカー盤をメッキすることで、スタンパーと呼ばれる金型のようなものが作られる。スタンパーで塩化ビニールをプレスしてレコードが出来上がる。レコードにとってなくてはならない存在だ。

製造工程は①「傷やほこり、歪みなどをなくすためにアルミの円盤をきれいに洗浄し圧力をかける」②「ラッカー塗料と染料を混ぜたものを厚さ約0.2mmに均等に塗る」③「乾燥させたラッカー盤を職人の手でチェックする」。ラッカー盤はこの工程を1週間かけて出来上がる。

従業員わずか40人の企業が、なぜ世界で唯一のラッカー盤製造会社になったのだろうか。奥田憲一会長は「なろうと思ってなったわけではなく、必然的になってしまったというのが現状です」と話す。奥田会長によると、ラッカー盤を製造する会社は世界に5社あったという。パブリックレコードでもピーク時にはひと月1万枚以上を出荷していたが、低迷期にはわずか数百枚にまで落ち込んだという。

パブリックレコード 奥田憲一会長:
CDが台頭した時期に採算が悪くなってきたということだと思います。量が多くても少なくても続けていきたいと考えています。一つの文化として残していきたい。

■レコードプレーヤーも販売増。1台700万円機種も

レコードブームが再燃する中、売り上げを伸ばしているのがレコードプレーヤーだ。

日本が誇るオーディオメーカー「ティアック」のレコードプレーヤーの販売台数は、10年前2万4000台だったのに対し、2021年は8万3000台まで増えたという。最新のレコードプレーヤーにはBluetoothの送信機能があり、ヘッドホンやBluetoothスピーカーで楽しむことができる。

ティアックは先月、ハイエンド向けのブランド「エソテリック」から新型レコードプレーヤーを発売した。価格は700万円。高価なわけは、レコードプレーヤーの常識を覆す技術にある。

一般的なレコードプレーヤーは、モーターでベルトなどを使ってターンテーブルを回す。この製品は磁力を使い、ターンテーブルに触れることなく回転させることができる。特許も取得した最新技術だ。

ティアック 吉田穣氏:
(この技術は)モーターからの振動をアイソレート(隔離)するために非接触でやるマグネドライブです。純粋にノイズが減る。それが一番大きな違いです。

700万円という価格にも関わらず、既に最初の生産台数は完売した。今後、増産し、2023年3月までに4億円以上の売り上げを見込んでいる。

ティアック 吉田穣氏:
ブームと言われていた時期、リバイバルと言われていた時期はもう過ぎ、音楽を楽しむソフトのあり方として定着したと考えています。

■単なるレトロ復活ではない?若者のアナログ回帰

最近、若者の間にアナログ回帰があるという。レコードだけでなく、カセットテープやインスタントカメラ、キャンプも人気だ。文房具、手帳なども売り上げが伸びている。モノの価値が見直され、レコード針も最盛期の3分の1近くまで戻ってきており、単なるブームではなくなってきている。

第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野英生氏:
日本はかつてアナログですごく強く、デジタルで凋落しました。こういう技術の見直しというのは、すごくいいと思います。

(BS-TBS『Bizスクエア』 10月29日放送より)