超人たちが34年ぶりに東京へ!今年9月に開幕する「東京2025世界陸上」を前に、これまで歴史に名を刻んだ伝説のアスリートたちを紹介する。
『ハードルなぎ倒し男』、アレン・ジョンソン(アメリカ)は、その異名通り、数々のライバルとともに、ハードルをなぎ倒し、男子110mハードルで世界のトップに君臨し続けた。通常はハードルを倒した場合、減速したりバランスを崩したりするが、ジョンソンは何台倒してもスピードを落とすことがなかった。設置されたハードル10台すべてをなぎ倒したことも・・・。その結果、五輪で1つ、世界陸上では4つの金メダルを手に入れた。まさに常識破りであり型破りすぎる王者。記録と記憶に残る名ハードラー・ジョンソンの〝なぎ倒しの歩み〟をたどった。
なぎ倒し伝説の始まり
95年 イエテボリ 4
97年 アテネ 0
01年 エドモントン 5
03年 パリ 0
05年 ヘルシンキ 6

この数字は、世界陸上の決勝レースでジョンソンが倒したハードルの数だ。ジョンソンが初めて世界陸上を制したのは、24歳で出場したスウェーデン・イエテボリ大会。決勝では低い態勢から好スタートを切り、第2、第3ハードルを連続でなぎ倒すと、中間走で抜け出した。第7ハードルを倒し、リードを保ったままラストの第10ハードルは足の裏で蹴り倒しそのままフィニッシュ。自己ベストを0秒16更新する13秒00でビッグタイトルを掴んだ。
なぜタイムをロスせず、速く走れるのか
なぜジョンソンは、ハードルを倒しながら(ハードルにぶつかりながら)スピードを落とさずレースに勝つことができるのか。以前ジョンソン本人はこう話していた。
「自分の体の向きや姿勢、位置がいいことで、減速せずに進むことができるんだと思う」
この種目のハードルの高さは106.7センチ。一般男性の腰の高さほどある。ジョンソンは身長178cmで、トップ選手の中で決して有利な体格とは言えなかったが、たとえ足がハードルに当たっても走り自体に影響を受けなかった。ハードルは、手や体、振り上げ脚の上側以外で倒した場合は失格とならない。ジョンソンは、振り上げた脚の太腿の裏側をハードルに擦るように最短距離を越えていくテクニックも備えていた。派手ななぎ倒しの裏側には、ジョンソンの類まれな走力とバランス感覚、ハードル技術、そして競技哲学があったといえるだろう。
五輪でもなぎ倒して〝金〟 真の王者へ
世界陸上を初めて制した翌年、ジョンソンは母国開催のアトランタ五輪に王者として登場した。その決勝レースで、なぎ倒す走りを世界に印象付けた。第3、第4ハードルを除いて10台中8台のハードルを倒したが、中盤以降ハードルを倒しながらリードを広げていくという常識を覆すパフォーマンスでトップフィニッシュ。この種目で初めて世界陸上と五輪、2つの頂点に立ち、真の王者となった。

その後もジョンソンは勝ち続けた。
世界陸上では、計4度の金メダルを獲得。内2度は、決勝レースでハードルを1台も倒さなかった。シドニー五輪では、10台すべてをなぎ倒す〝完全制覇〟を達成したが、表彰台は逃した。
96年 五輪 金 (8)
97年 世界陸上 金 (0)
00年 五輪 4位 (10)
01年 世界陸上 金 (5)
03年 世界陸上 金 (0)
04年 五輪 2次予選DNF (4)
05年 世界陸上 銅 (6)
※カッコ内は決勝もしくは最後のレースで倒したハードル数
勝っても負けてもハードルをなぎ倒し続けたジョンソン。陸上ファンを魅了する走りと、数々の偉業を成し遂げて、110mハードルの歴史に光り輝く一時代を築き上げた。
東京2025世界陸上 男子110mハードル「この選手に注目!」
◆泉谷駿介(25、住友電工)13秒04※日本記録
2023世界陸上 5位
◆村竹ラシッド(23、JAL)13秒04※日本記録
2024パリ五輪 5位
※東京2025世界陸上代表内定
◆グランド・ホロウェイ(27、アメリカ)12秒81
世界陸上3大会連続金(19、22、23年)
2024パリ五輪 金、2021東京五輪 銀
※ワイルドカード