“放棄された”空間が生むリアリティ

金曜ドラマ『イグナイト -法の無法者-』より

ピース法律事務所の空間には、あえて“雑多さ”や“未完成さ”が残されている。洗練された現代的なオフィスとは対極だ。

「個人的なイメージですが、当初、錆びついた階段を登って出勤するような。轟が知り合いの工場の2階を間借りしているような設定でもいいんじゃないかと思っていました。

実際、鉄骨の柱をそのまま使ってハンガーにしたり、棚にしたり。棚も“THE本棚”のような家具は少ないです。机やイスもバラバラ、応接のソファもよく見るとデザインが異なっていて、『足りないものを足した感』を出しています。だから、全部が古い物ではなくて、ホームセンターで買えるようなカラーボックスも取り入れながら全体をまとめています」。野々垣氏の言葉どおり、床や壁面の凹凸や汚れさえも“物語る”素材と化している。

それは事務所のボスである轟 謙二郎(仲村トオル)のデスクにも表れている。木製で重厚感があり、他のキャラクターとは一線を画している。「サスペンダーを着用したクラシカルな服装を見たときに、“ブリティッシュ”っぽさを感じて、それが空間の出発点になりました。唯一、木製のデスクを使っていて、彼の人となりが見えるようにしたかった」。

「六法全書を置く棚も時代を感じさせる家具だったり。実は鉱物やアンティークのペンスタンドは僕の私物なんです。轟と僕とでは性格は全然違いますが、質の良い物を買って長く使うようなところは似ていそうだな、と。実際僕はデザインを手描きでやっていたりしますし。そういう古いものの良さを知っているキャラクターを表現しています」。