リアルは細部に宿る――セットに仕掛けた遊び心

日曜劇場『キャスター』より、阿部寛

主人公の個室は、当初1階に設ける案もあったが、2階へ行く理由もつけたいと2階に設けられた。実際の報道局ではアナウンサーはアナウンサー室に席がある。社外のキャスターもそこに席を作ろうと考えたが、プライバシーの観点からも、報道局の中にあるのは違和感を覚えたという。

そんな主人公の個室の家具は“支給品”ではなく、彼自身が長年使っていたような味のあるものを配置。「新しい家具ではない。主人公の歴史を感じさせる空間にしたかった」と雨宮氏。

日曜劇場『キャスター』より

隣接するミーティングルームとは仕切り戸でつながっており、状況に応じて一体化させて使うこともできる。「1室を2つに分けて使っている設定。進藤がキャスターになったことで居場所として与えられた空間なんです」と、主人公の型破りな一面は部屋の使い方にも現れている。

さらに、報道局の細部にはさりげない遊び心も仕込まれている。例えばロッカーの上には、打ち合わせのときに使用した模型がひっそりと置かれているという。「別の番組で地方局のセットを担当したとき、模型を差し上げてすごく喜ばれたんです。だから今回も置いてみました(笑)」。

他にもキャラクターの個性に応じた小物や、ADたちが使うインカムの充電ステーション、事件現場に直行できるよう脚立を配したラックなど、“見せないリアル”が随所に息づく。

どのディテールも、“普通じゃない報道ドラマ”を実現するための積み重ねだった。雨宮氏が語った「動きが取れて、迫力のある、ただの板付きじゃないセットにしたかった」という言葉。それはセットという枠を超え、作品全体の思想を体現するものだった。

日曜劇場『キャスター』より

報道番組の様式に縛られず、映像作品だからこそ可能な演出を重ねたセットが、リアルとフィクションの境界を緩やかに越えていく。その空間が映し出すのは、現実の延長線にある“もうひとつの報道”の世界だ。