「陸揚げされていないので覚書に反していない」

原子力艦船をめぐっては、アメリカ政府が1964年に日本政府に示した覚書(エード・メモワール)では「放射能にさらされた物質はアメリカ国外の港で搬出しない」などと約束されている。

その後、アメリカ政府は2010年に「『搬出』とは、陸上に搬出される意味だと理解している」と見解を示し、横須賀基地の敷地内で放射性廃棄物が運び出されることについては「陸揚げされていないので覚書に反していない」としている。

日本政府も2010年の国会答弁で「コンテナに納めて別の艦船に移し替えることは陸揚げを伴わないことから覚書の範囲内の行為だ」という見解を示している。

「日常」となった搬出 どう向き合うのか

日米双方から「陸揚げされていないので問題無い」という趣旨の見解が示されているが、横須賀において放射性廃棄物が搬出されたという事実は確かだ。横須賀での搬出は14回目で、原子力空母の配備後、ほぼ毎年行われている。いわば「横須賀の日常」となった。

放射性廃棄物の搬出に関心を持つ人は多くない。それでも状況を監視している呉東弁護士はこう強調する。

「搬出は市民の不安を無視し、人口が密集する横須賀基地の周辺の市民と基地の従業員を放射能汚染に晒す危険を常態化させるものだ」。

原子力空母が配備されている街の「日常」を全国の多くの人に知って欲しい。

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岸将之
TBSテレビ 調査報道部特別報道班
東京・葛飾区出身。これまで所属した社会部では東京地検特捜部や裁判所などの取材を担当。その後、「報道特集」に所属し東京五輪での「弁当13万食廃棄問題」や、侵攻が始まった翌日からウクライナ・ベラルーシの両国で取材をした。 2024年7月から所属する特別報道班ではM&Aで中小企業が悪意ある買い手企業の被害に遭っている実態を取材。