「諦めている選手はひとりもいなかったし、最後まで絶対に勝てると信じていました」。2022年10月2日、奇跡の大逆転でリーグ連覇を果たしたオリックス・バファローズの中嶋聡監督は、優勝インタビューの中でこう答えた。パシフィックリーグの歴史の中でも、後世に語り継がれるであろう、ラスト1試合での筋書きのないドラマ。それは、長いペナントレースを戦い抜く指揮官の胆力と優勝争いを勝ち抜いた経験を持つ多くの選手がいたからこそ、初めて可能になった戴冠だった。

さかのぼること約1か月、8月26日、京セラドーム大阪。オリックス対西武の22回戦。この時点では、対戦相手のライオンズは、首位ソフトバンクに0.5ゲーム差の2位。追いかけるバファローズは、その西武に2ゲーム差の3位。エース山本由伸投手をたてて、どうしても、ものにしたい一戦だった。パリーグの上位を争う両チームの激突。緊張感が漂う中、試合が進んでいく。

4回、1点を先制されたオリックスが、その裏、ワンチャンスをものにする。ライオンズの先発、今井達也投手からラッキーな形で2点を奪って逆転。山本投手の調子も上々。このまま試合の流れを引き寄せる、そんなムードが球場を包み込んだ。しかし7回、リーグを代表する両雄の対決が、空気を一変させる。

昨年のパリーグMVP、投手タイトル7冠の山本由伸投手に対するのは、ホームラン王を独走する西武の主砲・山川穂高選手。ここまで2三振、この打席も1ボール2ストライクと追い込まれた山川選手だったが、そこから粘って7球目を強烈なフルスイング。 左中間スタンド上段に飛び込む36号ホームラン。一振りで試合を振り出しに戻した。

それでも、まだ同点。山本投手の投球数も100球を少し過ぎたところ。大事な一戦だけに、そのまま山本投手が続投すると、つめかけた多くの観衆がそう思った。ところが8回、オリックスベンチはリリーフのワゲスパック投手をマウンドに送り込む。「ペナントレースの勝負は、まだまだ先にある」というメッセージとリリーフ陣に対する絶対の信頼、長いリーグ戦を全員で戦う意思を示したのだ。

一方の西武ライオンズは、そのまま今井投手が続投。144球の熱投で9回を投げ切った。

結局、延長にもつれ込んだ一戦は西武がものにしたが、極限の戦いの中で心身ともに疲労が蓄積した今井投手は、この試合を最後にチームから離脱。高橋光成投手と並ぶ右の2枚看板の一人である先発の軸を失った西武は、優勝戦線から脱落していく。逆に、この試合で無理をしなかった山本由伸投手は、ローテーションを守って、ロッテ、ソフトバンク、楽天といった優勝争いのライバルを相手に4連勝。特にゲーム差3.0で迎えた9月17日からの絶対に負けられないソフトバンクとの最後の天王山では、圧巻の完封劇でチームを勢いづけた。