長崎市沖に浮かぶ端島、通称「軍艦島」。その特異なシルエットから、戦時中にアメリカ軍の潜水艦が“本物の軍艦”と誤認し、魚雷を発射したという「逸話」が語り継がれてきました。脚色とも言われてきたこの話の真相を探るべく、実際の映像と史料をもとに取材を開始。シリーズ第3回では、ついに発見した魚雷攻撃の瞬間、映像の流れから”軍艦島魚雷攻撃事件”の真相に迫ります。

潜望鏡から見た1945年の軍艦島
今回入手した白黒映像の軍艦島、昔見たカラーの軍艦島。色彩の違いはあるが2つは紛れもなく同一の映像だ。しかし、どこか違和感があった。
30年前に見たときには気づかなかったのだが、今回はドラマ「海に眠るダイヤモンド」がきっかけで島の形や島内の建物についてかなり頭に叩き込んでいたので違和感の原因はすぐに判明した。動画は「裏焼き」だった。
「裏焼き」とはフィルムで撮られた動画ではときどきお目にかかる現像ミスだ。フィルムを裏返しで現像してしまったために映像の右左が逆になる現象。映像に文字とかが写り込んでいたらそれに気づくのだが風景映像でそれを見抜くことは結構難しい。結論から言うと軍艦島雷撃映像は右左が逆だった。編集機で修正をかけて”正しい軍艦島”の姿がよみがえる。
アパートが艦橋 櫓がマスト
潜望鏡の目盛りも写り込んでいる映像が最初に映し出したのは”舳先”の方から見た軍艦島。日本最古の鉄筋コンクリートアパート「30号棟」もはっきり見える。背後の「水タンク」と合わせると軍艦の艦橋のようにも見える。その横にそびえる「第二竪坑櫓」はマストという感じか?

写っていたのは端島神社や石炭運搬船
次のカットでは端島神社と島の東側に広がる炭鉱施設が確認できる。

その背景に埋もれるような形で一隻の船も写っていた。この船は石炭運搬船「白寿丸」。軍艦島で採れた石炭を運び出す船、エネルギーを運ぶ石炭運搬船は戦時中においては貴重な船だ。

船の全景を捕えた後、潜望鏡映像は白寿丸をアップする形でしばらく固定される。そして数秒後、白寿丸の右舷前方から凄まじい水柱が上がった。魚雷攻撃だ。

標的は島ではなく石炭運搬船?
その後も潜望鏡映像はゆっくりと沈み始めた「白寿丸」の姿をとらえ続ける。白い作業服の乗組員があわただしく船の上を駆け回っている姿も確認できる。魚雷は合計3発発射されたという記録もある。
映像は軍艦島全体ではなく、泊まっていた船をメインに写していた。潜水艦の攻撃目標が「白寿丸」だったことがうかがい知れる。
これらの一連の流れを見ると
・「潜水艦が軍艦島を本物の軍艦と間違えて魚雷を撃ち込んだ」のではなく
・「潜水艦が軍艦島の石炭積み込みポイントの近くまで接近し、停まっている船に狙いを定め魚雷を撃ち込んだ」という流れが確認できる。
狙いは石炭運搬船だったのだ。

長崎港のすぐ沖、軍艦島までやってきたアメリカ潜水艦。海上自衛隊の関係者にも映像を見てもらったが、こんな近海まで潜水艦がやってきて活動していることから当時(1945年6月)の戦況が日本にとっていかに厳しかったのかがわかるという。沿岸警備がほぼ機能していなかったと。
その日本近海でのアメリカ潜水艦の活動は軍艦島周辺だけではなく組織的かつ大掛かりに行われていた。
次回は「ターゲットは軍艦島だけではなかった!」日本近海での米潜水艦による通商破壊作戦についてです。