「村の香りを地球の裏側へ」
原発事故で一時、避難指示が出された川内村。住民の15%は、いまも避難生活を続けています。そんな川内村で、足を運んでまでも触れたい「場所」や「モノ」を生み出すこと。それが、大島さんの目標です。ジンは世界中で愛さている酒で、長期保存も可能です。世界へと広がる可能性を秘めた商品だと考えています。
大島さん「福島の川内村で閉じ込めた香りを、地球の裏側でもほぼ同じ香りをボトルを開けたら楽しんでもらえるというのはロマンもあるし魅力的」
温度や圧力、抽出のタイミングで、仕上がりが変化するジンは、作り手の個性を出しやすい酒の1つです。機器を注意深く調整しながら、最も良い香りが引き立つ温度を見極めます。

納得のいく香りや味わいを追求する試行錯誤の日々が続きます。
大島さん「(ニオイコブシは)今までやってきた5種類の中で一番難しい植物だった。今までで一番うまく(香りを)とれている」
飽くなき探求心とともに、村の未来に思いを馳せます。
大島さん「僕らが作ったお酒がいろんな場所に出ていって楽しまれて、それがもとで人がこの地域にやってきて、お酒だけでなく周りに店舗をやる人が増えたり、そういう広がりができたらおもしろい」

ジンは福島駅や郡山駅のほか、大島さんの蒸留所のオンラインショップで販売していて、将来的には海外への輸出も目指しているということです。
【取材後記】TUF報道部記者 伊藤大貴
「植物や木が育つまでの年月があるからこそ、こうやって今おいしいものを飲めている」。一朝一夕では形にならない蒸留酒。大島さんは今後、ジンに使われるカヤの木を植えることを検討しているといいます。植えてから成木になるまで300年かかるといわれているカヤ。「自分の何代か先の人が形を変えつつ、近隣にある植物とかを使って香りを楽しんでいる状態があると、村もやっていけると思う」と、決して会うことが叶わない300年後の蒸留家が、酒を仕込む姿に想像を膨らませます。
蒸留所を中心に村に関心をもってもらい、人が集ってほしいと願う一方で、こうも話します。「村が(都会的に)発展してほしいというより、今の状態が心地良い。蒸留は自然があってこそ。僕らの事業があることで、自然環境もよくなっていくこともできればいい」。
今後も問われるであろう復興と地方創生のあり方には、いくつもの選択肢が存在するのかもしれません。