「戦後生まれだからこそ」

その点、現陛下の内心は少し異なるように見受けられる。原体験を語ることはできないけれど、象徴天皇として、何ができるか。

陛下の言葉やご様子を間近で見て、私が感じたのは「語り継ぐ」ことへの強い思いだ。現地で予定外に遺族らとコミュニケーションを取ろうとした場面や、語り部活動の話に強い関心を示される表情などにも、思いは滲んでいた。

宮内庁関係者によると、今回の硫黄島で陛下は、「上皇ご夫妻の慰霊の旅をそのまま踏襲するのではなく、“戦後生まれの自分だからこそ”できることがある」という意識を持って、今回、慰霊に臨まれたという。

戦争を経験していないからこそ、初めて「語り継がれる側」の目線を持つ天皇として、記憶をつなぐ大切さを国民に訴えかけようとしているのだ。

思えば、毎夏の戦没者追悼式でのおことばからも、その違いは読み取れる。

現陛下即位後の2019年、これまで上皇さまが用いられてきた「深い反省とともに」というフレーズは、「深い反省の上に立って」に変えられた。戦中を生きていない以上、反省を「ともに」することはできないけれど、過去の歴史を見つめ直して、自身が聞いた話を若い世代に紡いでいくことはできる。そうした思いがあるのかもしれない。

「戦後生まれだからこそ・・・」この思いを持ち続け、訪ねた地で耳を傾け、心を寄せる。それが、今の両陛下にしかできない、“令和流”の慰霊なのだと感じた。

硫黄島を発つ両陛下。エンジン音が響く中、村長らが「きょう供えてくださった花を頂いて、島民ゆかりの場所に置いてもいいですか」と尋ねると、両陛下は笑顔でうなずかれた。

こうして、今年最初の“慰霊の旅”が終わった。戦争を経験していなくても、平和への思いはかならず継承できる。戦後80年、両陛下による令和の“慰霊の旅”は、これからも続いていく。

TBS報道局社会部 宮内庁担当 岩永優樹