都心から1200km 穏やかな島の生活が一変

硫黄島は、都心から1200km南の太平洋上にある。自衛隊が管理していて、観光目的での訪問はできない。今でも隆起を続けている火山島で、私が訪ねた際も、文字通り硫黄の匂いが立ちこめ、あちこちから温泉のような煙があがっていた。

戦前、島の暮らしは至って穏やかだった。約1000人が住んでいて、太平洋の温暖な気候のもと、農業や漁業などを営んでいた。娯楽としてスポーツも盛んで、相撲大会が行われる日は、地域の人が集まって大盛り上がり。夜にはみんなで島寿司を食べたという。

そんな平和な島は、太平洋戦争の激戦化にともない、本土防衛の最前線に。

硫黄島は、アメリカ軍が拠点としたサイパンと東京都心の中間に位置する。アメリカ軍は、ここを中継基地にしようと考えていたのだ。
アメリカ軍は、上陸前から空爆などを行ったが、対する日本は、地下にトンネルを張りめぐらせて徹底抗戦。元々住んでいた島民の一部は軍属として島に残った。
1945年にはアメリカ軍が上陸。圧倒的な戦力差と、地熱で耐えがたい暑さの地下壕。約1か月の絶望的な戦いの末、日米両軍・島民あわせて3万人近くが命を落とした。
戦後、島は日本に返還されたが、政府の復興計画から除外され、強制疎開させられた島民とその子孫は帰島できないまま、令和のいまに至る。