日本と中国の関係がいま、大きく変わりつつあります。
最大の要因はトランプ政権の誕生です。貿易摩擦などで厳しくなるアメリカとの関係を見据え、中国は今、日本だけでなくこれまで対立していたインド、オーストラリアなどとの間でも懸案を解決し、関係を安定化させようとしています。
高まる友好ムードの先に何があるのか。残された課題にどう向き合うのか。金杉憲治駐中国大使に日中外交の舞台裏から米中関係、中国の魅力まで縦横無尽に語り尽くしてもらいました。
前編は「世界最大級」の大使館を運営する苦労や醍醐味、そしてトランプ政権についてです。
(前・後編のうち前編。毎週水曜日に配信:JNN北京支局のポッドキャスト「北京発!中国取材の現場から」より抜粋・再構成)
(3月18日 北京の日本大使公邸で収録)
中国大使で苦労することは…「人に会えない」
Q大使は普段、どんなお仕事をされているのでしょうか?
金杉大使
多分一番目立つのは中国との交渉をやることですね。それ以外にも日本から来た方に中国の事情を説明したり、中国の方に日本の事情を説明したりという地道な仕事も結構あります。
Q苦労することはありますか?
金杉大使
今、中国であまり政府の方に会えないんですね。これは外国人全般がそうで、日本人に限った話ではないんですけれども、人に会うのが難しいなというのが悩みの種です。 難しさと言えば体制が違う国なのでどうしても発想も違いますよね。
ただ、我々が心掛けているのは「言うべきことはしっかり伝える」。体制の違いがあるが故に理解してもらえない、ということではなくて「日本はこういう発想でこういう考えでこういうことをやってるんだ」というのをわかってもらう。そういう努力を粘り強くやっていかないといけないというのは難しさでもあると同時に我々の仕事のやりがいの部分でもあると思います。

Q北京の前はインドネシア大使をされていましたが、インドネシアと中国で違うことはありますか?
金杉大使
一番違うのはインドネシアではほとんどの閣僚と携帯アプリWhatsAppで繋がっていたので、連絡を取ろうと思えばメッセージを送ればだいたい返事が返ってくるんです。それが中国ではなかなか人に会えない。そこが一番の違いかなと思います。
Q機会は少ないかもしれませんが中国政府の方と実際に接してみると、どういう印象を持ちますか?
金杉大使
人によると思いますね。議論を直截にやってくる人もいれば、割合とソフトだけれども言うべきことは言うっていう人もいますし、相手によるんじゃないでしょうか。
ただ私が大事だと思っているのは、やっぱり日本は言うべきことはしっかり伝えて、たとえ相手の耳に痛いことであっても伝えるっていうことが大切だと思うので、それを心掛けています。中国の常識と日本の常識ってどうしても国が違うから違うじゃないですか。我々が常識だと思っていることも中国の方は理解していない時があるんですね。それは繰り返し説明して、相手が納得はしないにしても「日本の考えはそうなのか」というのを気づいてもらわないといけないので、言うべきことはしっかり言っていくことが大切だと思います。
Q外交は粘り強さが大事なんですね?
金杉大使
そうですね。もちろん100%の外交っていうのはなくて、国と国とはどこかで折り合いをつけなくちゃいけないんですけども、その折り合いをつけるプロセスというのは結構時間がかかると思います。