群馬・利根商業高校にプロを夢見る双子の球児がいる。弟・内田湘大(18)は、4番でピッチャー兼内野手のドラフト候補。補欠だった兄・内田耀晴(18)は、大学進学を予定。兄弟仲はいいが、常に刺激し合うライバルでもあった。ちなみに内田は、弟と妹も双子という、珍しい双子2組の4人きょうだいだ。

「兄弟で比べられることが嫌だった」

中学までは兄・耀晴の方が注目される存在だったが、かつて桐生第一高校を甲子園優勝に導いた名将・福田治男監督の下、兄に必死で追いつこうと練習を重ね、頭角を現した。身長183cm、体重85kgの恵まれた体格を生かし、投手としては最速149キロ、野手としては一塁を守り、高校通算36本塁打。「プロでも二刀流でやりたいと言っているので、出来たら良いなと思っています」と自身が話すように、投打の二刀流としてスカウトの目に留まったプロ注目の選手だ。

そんな彼の信条は「常に全力」。例え、追い付かないようなボールでも1%の可能性があれば、果敢に飛び込んでいく。そのため、救援の場面でマウンドに上がる時、いつもユニフォームは泥だらけ。その姿は、小学生の頃から変わらない。

そんな「常に全力」というプレースタイルの裏には、父の存在があった。父・清司さんは、大学生のときに不慮の交通事故で頚椎を損傷、首から下に重い麻痺が残り、車いすでの生活を送っている。父も、元高校球児。息子たちがプロ野球選手を夢見てひたむきに練習する姿を嬉しく思う一方で、キャッチボールの相手もできないもどかしさがあったという。

「私が一緒にキャッチボールとかしてあげる事が出来なかったので、ネットの加工くらいであれば出来るかなと思った」

小学生の頃、父は家でも思いきり練習ができるようにと、家族に内緒で中古のピッチングマシンを購入し、庭に設置。距離が足りず、対角線上に置くことにはなったが、子どもたちのために即席のバッティング練習場を作った。

「自分たちが知らない間に計画して買っちゃって『何してんのかな』と思ったんですけど、打ちたかったんで『ありがたいなぁ』という気持ちでした」と内田。ファウルチップを打つと、軒裏にボールが当たり、穴が空いてしまうが、その穴は、練習漬けだった少年時代の思い出にと、今でも残され、バッティングマシンも倉庫に保管されているという。

物足りなくなると、別の場所に移動した。近くの空き店舗を借り切って、もう一台本格的なピッチングマシンを買い足し、専用のバッティング練習場を作ったことも。父は労をいとわず、子どもたちの夢をバックアップしてくれた。

やると決めたら「常に全力」、とことんまでやる。その姿勢は、ハンデをものともしない父の人生と重なる。不自由な車いす生活ながら、これまで様々なことにチャレンジしてきた。車いすカーリングにダイビング、海外の4000m級の山にロボットと仲間たちの力を借りて登ったことも。体が不自由でも「常に全力」で取り組むことの大切さを、背中で教えてくれた父の生き様が、がむしゃらに白球を追う内田選手のプレーにも反映されている。

「ドラフト会議で呼ばれてプロになるっていう事もそうなんですけど、プロでがむしゃらにプレーしている姿を見て貰うことが一番恩返しになるかなと思います」

高校まで同じチームで切磋琢磨した兄とともに家族全員で、20日の運命のドラフトの日を待っている。