「群馬の問題だけではない」

台本執筆に取り組む三宅美歌監督=©TBS DOCS

神戸:この映画はテレビとは異なる「長さ」の中で、どのような背景や意図を盛り込まれたのでしょうか?

三宅:映画では、映像の尺の制限でテレビでは伝えきれなかった背景や影響を盛り込みました。この問題は群馬だけでなく、各地で起きていて今も現在進行形であるということを映画では意識して描いています。

取材に協力してくれた遺族=©TBS DOCS

神戸:民族差別は戦争の悲惨さを招いた一因でもあります。それを踏まえ、二度と戦争を起こさないために、歴史を直視し、平和な社会を作ろうという誓いが込められていたはずです。しかし、群馬で起きた撤去の事実は、他の地域にある追悼碑にも影響を及ぼす可能性があります。これは群馬だけの問題ではないと考えるべきですね。

三宅:その通りです。同じ団体が「撤去を目指す」と公言している追悼碑が東京にもあります。群馬の集会に参加していた方の中には「これから追悼碑を建てたい」と活動している人たちもいましたが、「もし裁判で負けたら建てられない」とも語っていました。全国各地に影響を与えている問題だと強く感じます。

「彼らなりに資料を読んで…」

碑の撤去を求め叫ぶ人たち=©TBS DOCS

神戸:追悼碑の撤去を求める中心的な団体は、「日本女性の会・そよ風」ですよね。以前、関東大震災における朝鮮人虐殺の慰霊碑撤去を目指していた「そよ風」が追悼の慰霊祭を妨害する現場で三宅さんとお会いしました。その時、思いを持って取材されている姿を見て、私は心強く感じました。一方で、これらの団体の動きは非常に強硬ですね。

三宅:各地で撤去という結果になっていますね。

神戸:歴史修正主義の人たちは、自分たちが修正主義だとは認識していないようです。「こうであってほしい」という結論を先に置き、であるからこそ「そうでなかった」という主張は嘘である、虚偽である、そんなことを日本人がするわけない、という本末転倒な議論をしています。取材を通じて彼らの行動を観察すると、彼らは本気で自分たちの主張を信じているように見えます。

三宅:彼らは彼らなりに資料を読んで、「そのような歴史は存在しなかった」あるいは「あったとしてもそれは自虐史観でいつまでも有益ではない」という考えを持っています。

神戸:私は歴史学を学んできた人間として、「事実(ファクト)に対する誠実さが欠けている」と感じます。「どうしてこんなことを本気で信じているんだろうなあ」と疑問に思うことばかりです。しかし、彼らの熱情が現実社会での行動に繋がり、問題を引き起こしているのも事実です。私たちは、「違うものは違う」としっかり主張していかなければなりません。そうしないと、多様な意見があるという名目で「その一つの意見でしかない追悼碑は撤去されるべきだ」というような話に発展してしまいます。デマが事実を駆逐することは決して許されません。群馬の追悼碑撤去に関わった人々にとっても、これは非常に悔しい出来事だったと思います。

三宅:本当にそうです。このような動きが進むことで、社会に対する絶望感を抱く人も増えているはずです。「なかった」と言う人たちを支持する層が相当数いるという現実を見ると、社会がどんどん歪んでいくようで、絶望感を禁じ得ません。