アメリカ・中国 関税合戦の行方 世界経済への影響懸念

――米中は今、どんな段階か?

東京財団政策研究所 主席研究員 柯隆氏:
中国は、やられたら必ずやり返すという戦法だが、日本はやられたら、じっと耐える。遺憾の表明だけ。中国は1回目の「10%」の追加関税を課されたときに、実はそれほど痛くなかったが、2回目もやられて、痛さもあるが、中国国内で批判があり、やり返さなければいけないだろうとなった。今中国国内でナショナリズムが高まっているので、最終的に考えられたのが「農産物。トウモロコシ、大豆、牛肉に焦点を当てて報復するぞ」と。これは賢かったと思う。なぜかというと、中国は、輸入できなくなった場合、あるいは値段が上がった場合、ブラジルなどから代替輸入ができる。(ブラジルからトウモロコシや大豆が買える)特に大豆を中国人はよく食べる。あとは家畜のえさとして使う。フィリピンなどで農地を借りて生産もしている。だから中国にとってあまり痛みがない中で、逆にトランプにとって困ることが農家の票を失う可能性があるので、来年の中間選挙へのダメージを中国は今見ている。圧力になっている。

――アメリカは合成麻薬への対策が不十分という理由でこの20%をかけている。
まだ本丸の貿易や輸出補助金などの話にいっていない?

東京財団政策研究所 主席研究員 柯隆氏:
トランプ大統領は選挙の時、60%を課すと言っていたが、本当の一撃はまだ来ていないが、米中のビッグディールが今予定されている。それは何かというと、ウクライナ和平。それを実現するには習近平に「プーチンに圧力をかけてくれ」となれば、関税を課さなくて済む。そのビッグディールが近いうちに実現されるのではないかという期待がある。

――アメリカの関税はまだ序の口。中国側は、ウクライナ問題への対応でアメリカの関税が止まってくれることを期待してるのか。

東京財団政策研究所 主席研究員 柯隆氏:
トランプ大統領は何が一番欲しいかというと、ノーベル平和賞のノミネート。それを手に入れるには中国の協力が必要。もしビッグディールが成立しなかった場合、容赦なく第3弾、第4弾が来る。そうなった場合、逆に習近平が困ることになる。要するにカードがもうないので、中国はアメリカとの貿易で巨大な貿易黒字を実現しているので、やり返すのがしんどいと思う。

――中国の貿易黒字貿易赤字のグラフをみると、黒字のほとんどをアメリカで稼いでる。

東京財団政策研究所 主席研究員 柯隆氏:
GDPの伸び率を計算するときに、輸出ではなくて貿易収支。黒字がどれだけ経済に寄与するかだが、中国経済がどれだけアメリカとの貿易黒字で貢献してもらっているか、一目瞭然。だからこのままトランプと戦い続けるのは習近平政権にとっては得策ではない。

――アメリカからどんどん関税を課せられて、本当に50%、60%の関税になれば、中国経済は相当袋小路になる。

東京財団政策研究所 主席研究員 柯隆氏:
マイナス成長に陥る可能性すらある。だから早く終わらせたい。トランプ氏の別の思惑はウクライナ和平の実現なので、それぞれどうディールするか。習近平氏とトランプ氏の誕生日は1日違いで6月にある。米中の事務方で「誕生日サミット」を計画していると言われている。

――もしそこでディールが成立すれば、一旦米中の関税戦争は小休止か。

東京財団政策研究所 主席研究員 柯隆氏:
少なくとも握手できるので、そうなったときに日本にとって困ることもある。この複雑な合従連衡の国際ゲームで、日本はまだ慣れてないというのが残念なところ。

貿易戦争でターゲットっているのはEU、カナダ、メキシコ、日本という同盟国。25%関税だと言っていて、米中でビッグディールが成立したら、中国は20%で、他国より5%低い関税で止まってしまうという、奇妙なことが起こる。

東京財団政策研究所 主席研究員 柯隆氏:
特に習近平政権にとってトランプの今のやり方が実はとてもやりやすい。なぜかというと2国間の戦争だと北京がもう耐えられないが、今多国間の戦争をやっている。中国の産業構造はフルセット型。世界の工場だから何でもそろっている。やられた場合、国内で生産はできるので、あとは内需が弱いので、それをどうクリアするかだ。諸外国にとってはやりやすい。

――今のところ中国がトランプに負けるという感じにはなっていないのか?

東京財団政策研究所 主席研究員 柯隆氏:
逆にトランプ大統領が負ける可能性すらある。

(BS-TBS『Bizスクエア』 3月15日放送より)