■“超特急時代”の前にある様々な課題

試乗会は一般の公募によるものも年数回開催されていて、7月に行われた会では定員993人に対し5万7600人の応募があったという。倍率は約58倍、関心の高さをうかがわせる。

ではリニア中央新幹線が私たちの生活の一部となる時代が本当に5年後にやってくるのか?JR東海は「日本は新たな未来へ」とのモットーを掲げ、2027年に東京-名古屋間の開業を目指している。ルートは品川駅から山梨県甲府市、南アルプス、名古屋を経由し、大阪までで、総距離438kmを67分で結ぶことを目指している。東京・名古屋・大阪を約1時間で結ぶことで、合計6600万人の巨大都市圏が誕生するというビジョンを描いている。例えば、地方の山間部に暮らしながら首都圏に1時間以内で出勤できるようになることも想定しているという。

総工費は品川—名古屋間で約7兆円の巨大プロジェクトだ。1962年に研究開発が始まって以来、2022年でちょうど60年を迎えた。

しかし、実際には2027年の開業は困難だ。その時期のメドすら不透明な状況に陥っている。例えばJR東海によると、品川-名古屋間のうち、本体工事契約の約9割が締結ずみとしているが、静岡工区の8.9kmはいまだに着手すらできていないという。

静岡県の川勝平太知事は大井川の水資源への影響を懸念し、トンネル工事によって県外に流出する水の「全量戻し」をJR東海に求めるなど水や環境への影響がクリアされていないとして静岡工区の着工を認めていない。そうした中、川勝知事はリニア新幹線の神奈川県駅と山梨県駅の建設予定地を相次いで視察。「山梨県側の計画は極めて順調にいっている」と述べた一方で、神奈川県による関東車両基地の用地取得事業が遅れているとして、「神奈川県が2027年の開業を不可能にした」と主張した。

一方、神奈川県の黒岩祐治知事は1日、相模原市に建設中のリニア中央新幹線の駅を視察した際の会見でこう反論した。

「住宅の部分でいうと8割の方が了承してくれている、2027年(の開業)ということから考えれば、着実に進んでいる、スケジュール通りにいっている」

会見にはJR東海の金子慎社長も同席し、神奈川県のせいで全体の工程が遅れているとは認識していないとした上で、「作業工程で最も難しい、静岡県の南アルプストンネルについて着手できていないことが2027年の開業が困難になっていることの要因」と述べた。


リニア中央新幹線には工事に伴う静岡県の水資源への影響や地域住民への騒音問題などもはらんでいる。積み重なった課題も巨大で、これについて超特急の解決は期待できない。JR東海は「2027年の開業は難しいという見通しだが、引き続き早期開業を目指して全力でとりくむ」としている。

TBSテレビ社会部 国交省担当 成田広樹