20年以上も全く変えられなかったものが、突如、前向きに回転し始め、日産自動車の社内は沸き立っているようです。日産の内田社長は10日、来日中のルノーのルカ・デメオCEOと会談しました。同日発表の日産・ルノーの共同リリースは、「アライアンスの持続可能な運営に向けて構造的な改善に取り組む」との表現で、日産が永年提起し続けてきたルノーの出資比率引き下げ問題を協議していることを事実上認めました。また、ルノーが設立する予定のEV子会社に「日産が出資を検討する」と明記しました。
■ルノーの出資15%を軸に調整
1999年に経営危機に陥った日産は、ルノーから約6000億円、37%の出資を受け、その後、出資比率は43%にまで高まりました。これに対して日産のルノーに対する出資比率は15%に過ぎず、しかも議決権は付与されていません。経営再建後の日産は、こうした関係を『不平等条約』として、資本面でも対等な関係になることを目指していました。関係者によれば、ルノーも出資比率の引き下げには「前向き」とのことで、15%への引き下げを軸に調整が進められています。また、フランスの経済紙レゼゴーによれば、これまでネックになって来たフランス政府も、今回は出資比率見直しに反対していないと言うことで、事態が大きく動く可能性が高まっているのです。
■ルノーのEV新会社への出資が、日産のテコに
ここに来てルノーが出資比率引き下げに応じる姿勢を示したのは、日米の市場よりはるかに速く電動化の動きが進むヨーロッパの自動車市場で、EV開発に資金と技術をつぎ込む必要があるからです。ルノーは2020年まで2期連続で巨額の赤字を計上した上、ウクライナ戦争によって、フランスに次ぐ第2の市場であったロシアからの撤退も余儀なくされる苦境に陥っています。そうした中、電動化に対応するため、新しくEV専門の子会社「アンペア」を立ち上げることにしています。新会社の設立には、当然、出資者が必要ですし、EV新会社は来年にも上場を目指すなど資金調達に躍起なのです。
日産にとっては、ルノーのEV新会社はヨーロッパ市場をターゲットにしていて、北米や中国・アジアをターゲットにする日産にとっては、それほどメリットはなさそうですが、日産はこのEV新会社に15%出資する方向だと報じられています。日産にはリーフに代表される電動車やバッテリーに関する技術もあり、日産としては、ルノーのEV子会社への出資と協力をテコに資本関係の見直しを実現させたいと考えているのです。
ゴーン会長時代の一時期、フランス政府は、ルノーによる日産の完全統合を目指したこともありかしたが、まさにその時期にゴーン会長が東京地検特捜部に逮捕されて、結果的に、この話は立ち消えになった経緯もあり、ルノーにしてみれば、もはや43%も日産株を持っている必要性はなくなっていたと言えるでしょう。要は、今が売り時なのです。ルノーはEV子会社「アンペア」の設立発表を11月8日に設定しており、このあたりをめざして、日産・ルノー間の協議は急ピッチで進められることになりそうです。
■焦点は、誰がルノーから日産株を引き取るのか
もっともルノーが手放すことになる日産株28%は時価で5000億円以上にも上ります。一部は日産が自己保有するかもしれませんが、一体、誰がどれだけ引き取るのかは、資金の工面を含め簡単な問題ではなく、なお曲折も予想されます。
かつてはトヨタと双璧をなした日産にとって、今回は『不平等条約』解消に向けた千載一遇のチャンスでしょうし、政府部内にも、日産を『外資』から取り戻すことを歓迎する雰囲気があります。いずれも感情論としてはわからなくもありませんが、そこに留飲を下げるだけで、未来が開けるほど、今の自動車市場は、甘くありません。
単独ではグローバル市場で生き残れない以上、対等になったルノーや子会社である三菱自動車とどのようにアライアンスを強化していくのか、日産自身がどのように魅力ある車づくりを強化していくのか、そして何より、一連のゴーン事件に代表される不正を引き起こした企業風土とガバナンスをどのように改善していくのか、その大きな責任が日産に問われることになります。ルノーやゴーンのせいにする言い訳は、もはや通用しなくなるのです。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)