「新横綱の3連覇」の記録もかかる

だが、「型がない」と言われる技術面では、自分でもまだ確信、実感が掴めていない様子だった。「それで(横綱に)上がっちゃったので。型がないのが、『僕の型』だと思います」と言うに留めた。

確かに6日間で3差を追いつき、逆転した先場所の優勝は劇的だった。しかし、昇進前4場所から成績を見ると、昨年名古屋場所9勝、秋場所8勝。千秋楽相星決戦で敗れた九州場所で13勝したのが過去最高成績。先場所を含めて2度の優勝はいずれも12勝。まだ、地力は確立されていないとみるべきだ。

ここ2場所、好成績につながった要因は前に出る圧力が出てきたことだろう。師匠の立浪親方(元小結旭豊)が口をすっぱくしていった「シコ、テッポウ、すり足をしっかりやれ」の教えが身についてきた。先場所も取組前の支度部屋では花道に入る最後にもう一度、テッポウ柱を両手で強く叩き、感触を確かめてから出ていく姿が目に付いた。

以前は「投げ」にこだわるあまり、逆に相手を呼び込んでしまい、自らバランスを崩すことがあった。相撲の投げは土俵に相手の手を着かせればよいので、「横ではなく下に向けて(投げを)打つ」のが基本だが、レスリング出身の豊昇龍は相手を転がすように振り回すような動きが目立った。

しかし、このところはそんな不安要素を封印して出足で相手を圧倒する攻めが増えてきた。特に目に止まったのは前まわしを引きつけ、相手の腰を浮かせて一気に寄り切る力強さだ。八角理事長(元横綱北勝海)は、それを同じ九重部屋で兄弟子だった「千代の富士さんに似てきた」という。豊昇龍は協会発表の149㎏から1㎏増えて150㎏になったと話したが、それでも幕内平均の157㎏よりは軽い。31度の優勝を誇る「小さな大横綱」を彷彿させる『型』を身に着けることは、今後、大きく飛躍するためには必要になってくる要素だと思う。

新横綱でいきなり「一人横綱」の重責を担うのは、1933(昭和8)年春場所の玉錦、93(平成5)年春場所の曙に続き、3人目となる。過去7人いる先輩の外国出身横綱でデビュー場所優勝を果たしたのは、2021(令和3)年秋場所の照ノ富士(13勝)のみ。他は武蔵丸が12勝。白鵬は11勝。曙と朝青龍は10勝。日馬富士、鶴竜がともに9勝。休場した者はいない。

引退したばかりの照ノ富士親方からは場所前に、「一人横綱として、自信を持って土俵を盛り上げて行ってね」とのエールをもらったという。実は照ノ富士の一つ前の稀勢の里(現二所ノ関親方)も新横綱場所は優勝しており、今場所の豊昇龍には「新横綱の3連覇」の記録もかかっている。

「優勝回数を二けたにしたいし、僕も新横綱で優勝したい」と話す豊昇龍。昨年は尊富士が110年ぶりとなる新入幕優勝を果たすなど、ここ4年間はいずれも関脇以下が賜杯を抱いている「荒れる」と言われる春場所。新横綱はどんな土俵を見せるのか、目が離せない。

(竹園隆浩/スポーツライター)