日本の競歩陣がまたも世界記録を更新した。第108回日本選手権20km競歩が2月16日、神戸市の六甲アイランド甲南大学西側20kmコースで行われ、男子は山西利和(29、愛知製鋼)が1時間16分10秒で優勝。鈴木雄介(37)が15年にマークした1時間16分36秒の世界記録を更新し、男子35km競歩の川野将虎(26、旭化成)に続き、現役の世界記録保持者になった。日本陸連が定めた派遣設定記録(1時間18分30秒)も突破して9月の東京2025世界陸上代表に内定した。2位の丸尾知司(33、愛知製鋼)、3位の吉川絢斗(23、サンベルクス)も派遣設定記録を突破し、代表入りを確実にした。女子でも藤井菜々子(25、エディオン)が1時間26分33秒の日本新記録で優勝。派遣設定記録の1時間28分00秒を突破し、東京2025世界陸上代表に内定。2位の岡田久美子(33、富士通)は参加標準記録(1時間29分00秒)を突破し、3月の全日本競歩能美大会の結果次第だが代表入りが有力になった。
世界記録ペースから少し後れていた前半
序盤から丸尾と山西の愛知製鋼コンビが集団のペースをコントロールした。具体的に話し合ったわけではないが、2人ともお互いが良い状態で今大会に臨んでいることを知っていた。
5km通過は19分09秒(5km毎のタイムは主催者発表)で、鈴木の世界記録から5秒しか違わないハイペースだった。それでも鈴木は「はまりきらない感じ。集団のリズムと自分のリズムが少し合わない」と、微調整しながら歩いていたという。注意(※)も前半で3回受けていた。
この時点で先頭集団は山西、丸尾、濱西諒(24、サンベルクス)、古賀友太(25、大塚製薬)の4人。濱西と古賀はパリ五輪代表で、古賀は8位入賞者だが、今大会では6km過ぎに2枚目の警告(※)を受けて集団から離れ始めた。
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(※)競歩は審判が歩型を判定し、規程の歩型(両足が同時に地面から離れてはならない。また、踏み出した脚が地面についてから垂直になるまで、その脚は曲げてはならない)で歩いていない選手には注意がイエローパドルによって出される。注意されても直らない選手には警告が出る。3人の審判から警告が出るとペナルティーゾーンで待機を命じられる(20km競歩は2分、35km競歩は3分30秒)。ペナルティーゾーンを出てさらに1枚警告が出ると失格になる。注意や警告が出されると思い切った歩きができなくなるなど、勝負に影響することもある。
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10km通過は38分21秒で、鈴木の世界記録から15秒後れていた。ハイペースであることに変わりはなく、濱西が11kmで離れ始めた。一度差を縮めたが力尽き、山西と丸尾の2人の争いに絞られた。
後半の驚異的なペースアップに自信があった山西
ペースが大きく変わったのが12kmから。「スピードが上がった12kmくらいで、(動きが)はまってきた」と山西。
「人数が絞れてきて、自分のテンポで歩きやすくなったことが1つあります。もう1つは前半、腕振りや地面に力を加えるタイミングと、姿勢のところが少しズレている感じがあったのですが、後半はタイミングが合ってきた」
12kmまでの1kmは3分52秒だったが、13kmまでは3分48秒に、14kmまでは3分44秒にペースアップした(1km毎のタイムは愛知製鋼陸上競技部提供)。13kmでは丸尾も後れ始め、山西は単独で記録を目標に歩き続けた。
鈴木と山西の新旧世界記録は、以下の5km毎の通過タイムだった。
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鈴木(15年全日本競歩能美) 山西(25年日本選手権20km競歩)
5km 19分04秒 19分09秒
10km 38分06秒(19分02秒) 38分21秒(19分12秒)
15km 57分15秒(19分09秒) 57分24秒(19分03秒)
20km 1時間16分36秒(19分21秒) 1時間16分10秒(18分46秒)
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前後半のタイムは鈴木が38分06秒と38分30秒だったのに対し、山西は38分21秒と37分49秒。山西は後半で、鈴木のペースを大きく上回った。
「10kmで38分21秒だったので、このタイムでこの力感なら(世界記録に)行けるだろうな、と思いました。38分40秒の10km通過でも、19分00秒プラス18分40秒台で世界記録くらいになります。16km、17kmの通過タイムと余裕度で、もう大丈夫でしょう、と思いました」
14kmまでを3分44秒にスピードを上げて独歩に持ち込んだが、その後も2度の3分45秒をはじめすべて3分40秒台で歩き、最後の1kmは3分43秒とこの日の最速ラップを刻んだ。これは世界大会のラスト勝負でメダルを獲得できるタイムで、それを世界記録のハイペース中で出したことに極めて高い価値がある。

















