■「ロシア人が一番怖いのは、ロシア人」

プーチン氏が演説の中で度々持ち出す話がある。

“スムータの時代”。

この言葉を聞くとロシア国民は、プーチン氏のような強い指導者がいかに必要か改めて感じるという。果たして、スムータとは・・・?

▼スムータ(1584年~1613年)=大動乱時代
雷帝の異名をとったモスクワ大公、イヴァン4世の死後、後継者を欠いたロシアに訪れた内乱時代。内乱に乗じてポーランド、リトアニア軍などが侵攻、モスクワを占拠するなど、都市部では29年間で人口の4分の3が死んだ。


このスムータはロシア人の多くに、強いトップがいないことへの不安を植え付けていると駒木氏は言う。

朝日新聞 駒木明義 論説委員
「プーチン大統領はこのスムータを利用してきた。ロシア革命もしかり、大動乱は起こしてはいけないと。指導者不在は破滅への道だと、ことあるごとに説いてきた。(中略)占拠されたモスクワをロシアの義勇軍が取り返したのが1612年の11月4日とされていて、ロシアの民族統一の日という祝日にプーチンがした。その代わり10月7日の革命記念日をやめてしまう。つまりスムータを治めた民衆の力を束ねるリーダーと自分を重ねて、国民を束ねる求心力にスムータを利用している」

プーチンがスムータを利用する一方、国民も大動乱よりはプーチン独裁の方がマシ、と思い、結果として相思相愛になっているようだ。

東京大学先端科学研究センター 小泉悠 専任講師
「スムータにしろ、ロシア革命にしろ、外国が攻めてくるより自分たちの生活空間が内戦状態で悲惨な状況が長引くことへの恐怖というのが、民族的記憶としてあるような気がする。専門外なので与太話ですけど、ロシアの建国神話からして、ルーシの民同志が争って全然まとまらないので、北欧から英雄に来てもらって治めてもらった・・・。根底に“我々は放っておくと何をするかわからない民族だから強いリーダーがいてくれなきゃ恐ろしい”っていうのがある。外国より内乱のほうが恐ろしい。一番怖いのはロシア人自身だという考えをわりと多くのロシア人が持っている」


今回の部分動員で、それでもプーチンの強いリーダーシップで内乱は起きないかもしれない。しかし、一番怖いのもロシア人である。国民は改めて自問自答しているのかもしれない。

(BS-TBS 『報道1930』 10月5日放送より)