ウクライナ4州を一方的に併合したロシア。公用語はロシア語に、通貨はロシアルーブルに、居住者はロシア国籍に・・・、と今後手続きが進んでいくとロシア側は公表している。一方で、併合を認めないウクライナはロシアが併合を主張する東部南部で次々と地域を奪還している。
プーチン氏の核使用は近づいているのか・・・。更に部分動員を発令後、動揺が続くロシア国内だが、それでもプーチン氏の支持が高い意外な理由を紐解いた。

■「わけわかんなくなって核ボタン押すってとこまではまだ行っていないと信じたい」

プーチン大統領は、部分動員を発令する際に、自国の領土が攻撃されれば核使用も辞さない姿勢を表明していた。現在、併合したとするエリアでウクライナ軍が攻勢にでているが、この状況はプーチン氏の核使用の可能性を高めているのだろうか。番組ではアメリカの軍事シンクタンク『戦争研究所』でロシアの動きを研究する担当者に話を聞いた。
彼女は、ロシアによる核使用の可能性は排除できないとしながらも、プーチン氏が正常であるなら核は使わないだろうと分析する。


米・戦争研究所 ナタリヤ・ブガヨワ 研究員
「(核を使うことは)ウクライナでのロシアの前進を保証するものでも、ウクライナ全体を支配するというプーチン氏の目標を達成するものでもありません。”限られた利益”のためにロシア政権にはかなりの代償が伴います。私の評価では、核使用がウクライナの戦う意思を壊す可能性は低く、プーチン氏もそれを考慮するのではないでしょうか」

確かに核使用は誰の得にも、何の解決にもならない。だが欧米のメディアでは、核魚雷搭載可能なロシアの原子力潜水艦が北極海に移動したとか、ロシアがウクライナ国境周辺で核実験を計画しているとか、物騒な報道をしている。さらにブガヨワ研究員は”プーチン氏が正常であれば”と前提を述べたが、東大先端研の小泉氏は、そのプーチン氏について“パラノイア的傾向が強まっている”と懸念を抱いている。

東京大学先端科学研究センター 小泉悠 専任講師
「(プーチンの演説を聞いていて)パラノイアが強まっているといっても、正気を失っているようには見えない。プーチンがパラノイア(偏執、妄想傾向)というのは前々から言われていて、その傾向が強まった。(中略)演説の中には日本やドイツはアメリカに占領されていて、日本なんか家中に盗聴器が置かれているみたいなKGB時代から培ってきたであろう極端な西側不信、軍事大国以外はまともな主権を持っていないみたいな大国主義がゆがんだ形で表出されているっていう意味でパラノイアといっているんですが、わけわかんなくなって核ボタン押すってとこまではまだ行っていないと信じたい。むしろ危ないと思うのは、大規模な核戦争にエスカレートしかねない話、本来なら人類的、国家的な視点で判断すべきことを、戦争に負けると俺の政治生命が危ない、政治生命が危ない時は物理的に俺の命も危ないとか、きわめて個人的な利益と天秤にかけかねないことですよね」


確かにプーチン氏はかつて、ロシアがなくなるなら地球がなくなっても構わないといったことを述べていた。プーチン氏が破滅的になる前に失脚する可能性はあるのだろうか?

■フルシチョフ氏とプーチン氏の違い

過去のロシアの為政者は、殆どが死によってトップの座を退いている。“排除された”数少ない例はフルシチョフ氏とゴルバチョフ氏だ。ゴルバチョフ氏の場合は、モスクワを離れている時にクーデター未遂があり、結局ソビエト連邦という国が消滅し自らその座を降りる選択をさせられた。
このゴルバチョフ氏よりプーチン氏の比較対象となるのはフルシチョフ氏の場合だろう。フルシチョフ氏は実質ソ連ナンバー1ではあったが、共産党内部で選出された党第一書記であり、国家元首ではなかった。最終的には共産党幹部とKGBと軍部が連携し追い落とされ失脚した。一方、プーチン大統領は選挙で選ばれた国家元首だ。そして、フルシチョフが失脚していく経過をつぶさに見ていたためか、かつてのKGBに相当する組織と軍を完全に掌握している。つまりフルシチョフ氏のように失脚する可能性は極めて低いように見える。


朝日新聞 駒木明義 論説委員
「今のプーチン氏を排除することが可能な手続きとしては、議会による弾劾というのが憲法にあって、これは上下両院の3分の2の賛成が必要。かつてエリツィン大統領が弾劾を受けそうになった。1999年、手続きが進んで投票まで行った。過半数が賛成したんですがさすがに3分の2はいかなかった。(中略)プーチン氏の場合はもっと容易ではないと思います」

国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤伸輔氏
「シロヴィキの掌握をずっとやってきた。ナンバー2のパトルシェフ氏はKGBの1年先輩。国家親衛隊のゾロトフ隊長はもともとプーチン氏のボディーガードだった。まぁ近い人たち、手なずけた人を使っている。だから簡単に揺るがないとは思います」

プーチン氏の足元も盤石ではないと伝えられるが、簡単に失脚することはないようだ。
加えて、ロシア国民がプーチン氏を支持する意外な理由があるという。