■コスト安で大量生産可能な定置型蓄電池。脱炭素にも貢献


――17歳から経営者をしてきて、経営者としてどこに自分に磨きがかかってきたと思うか。

パワーエックス 伊藤正裕社長:
最初の会社はいわゆるベンチャーですね。そして急成長大企業、上場企業の幹部を経験させていただきまして、包括的に両方よくわかったかなと。努力と根性のところと、計画のところと。少しずつ勉強できたかなと思っています。

――いよいよ社会課題に取り組む事業に挑戦する。蓄電池は昔からあるが、このビジネスは将来性があると見たのか。

パワーエックス 伊藤正裕社長:
はい。燃料というのはエネルギーを溜めておくものなので、脱炭素社会では石油、ガス、石炭というCO2を出す燃料がどんどん使えなくなります。つまりエネルギーをためるためには代替品が必要で、そこが電池だと考えています。


――再生可能エネルギーといえば太陽光や風力に話題が集まるが、再エネだけでは需要の変動に耐えられない。

パワーエックス 伊藤正裕社長:
需要は夕方や夜にあり、その時に日が暮れてしまうとソーラーがありません。いま事実上日本のどこを見ても、夜間には再エネがほとんどない状態です。昼間は逆に再エネが余っているので、太陽光の余っている電気を電池に溜めて、夜間それを使えれば、夜間のためにたいている火力など、CO2をたくさん出している発電所をちょっとずつ止められると。結果的にものすごく脱炭素貢献ができると思います


ためさえすれば平準化できる。当たり前の議論だが、誰もこの事業をやっていなかった。2016年の定置用のリチウムイオン電池の市場を見ると、日本は27.4%で、中国、韓国に並んでいた。2020年になると5.4%まで減少しており、日本の蓄電池事業は厳しい局面にある。

――これだけ電池が必要な時代が来ると言われ、実際に世界的には需要も増えているが、日本がどんどんシェアを落としている原因はどこにあるのか。

パワーエックス 伊藤正裕社長:
2016年よりも20年に対して市場がもう何十倍になっています。日本が停滞して各国が増えていったので、結果シェアが少ない。各国が増えた理由として考えられるのは、自動車業界がEVシフトを最初に欧州や北米、中国でしたことです。電池の生産キャパシティが各国でものすごく増えた中、日本ではそのサプライチェーンがまだ立ち上がっていないということで、少し出遅れてしまっているのかなと。

――EV用の電池をたくさん作る必要に迫られたところが積極的に電池産業に投資してきている。ただ、EVの電池と定置型の電池は意味合いが違うのではないか。

パワーエックス 伊藤正裕社長:
おっしゃる通りで、EV向けの電池は車の中に納めなければなりませんので、密度が必要でニッケルマンガンコバルト電池というのが主流になっており、レアメタルの数が多いのです。定置用電池というのはリチウムイオン電池の中でも古い部類なのですが、リン酸鉄電池ということでリチウムぐらいしかレアメタルがなく、実はコストも安くて大量生産がしやすいといった利点があります

――定置用の電池は昔からある技術を使えばいいということか。

パワーエックス 伊藤正裕社長:
(定置用電池は)ものすごく進化はしているのですが、レアメタルの数などは制約がありません。定置用は重くても大きくても構わないわけです。自動車は小さなところに大量にエネルギー密度を上げなければならないので、そういう電池が必要になってきました。その差が大きいと思います。

――大量生産でコストを3分の1に下げるというのは、独自のイノベーションがなくても生産体制を整えればできるというような世界なのか。

パワーエックス 伊藤正裕社長:
EVの値段がゆっくりですが下がってきているのは大量生産です。定置用電池も車を作るようにオートメーションで完成品を大量に作れば安くなり、こういうやり方がいまなされていないので、そこがある種のイノベーションだと思います。

――パワーエックスは電池そのものを作るわけではないのか。

パワーエックス 伊藤正裕社長:
はい。電池のセル、消費者からすると乾電池に近いような部分は、自動車メーカーと一緒で海外から調達します。