「安全」と「雇用」 低空経済に立ちはだかる課題も
良いことばかりに見える「低空経済」だが、問題も抱えている。ひとつは「安全」の問題だ。
昨年12月、湖北省の体育施設にドローンが落下し炎上する事故が起きた。同じ月に福建省ではドローンショーの最中、大量のドローンが制御不能となり落下する事故も起きている。
もう一つは「雇用」の問題。「宅配ドローン」や「空飛ぶ車」が増えると、宅配ドライバーやタクシー運転手の仕事がドローンに奪われるのではないか、という懸念が広がっている。
しかし、ドローン学校の温超祥校長は安全面や雇用問題について課題はあるとしながらも、こんな未来を語った。
黄埔ドローン学校 温超祥 校長:
「宅配ドライバーは1つの荷物に対し、たった数十円の送料しか得られません。急いで荷物を運ぼうとするあまり、交通事故もたくさん起こっているし、そもそも体力的に非常にきつい仕事です。ドローンの技術を手にした方が、多くの収入を得られるでしょう」
「中国も日本と同じくこれから少子高齢化社会を迎え、労働力が不足していくなかでドローンの活用はますます重要になるでしょう。安全面においても、深センでまず試験的に宅配ドローンを導入しているように、少しずつ安全面の問題をクリアしながら技術を活用していけば、問題ありませんよ」
すでに「宅配ドローン」が日常化している深セン市民に「安全」に不安はないのか聞くと、ここでも楽観的な答えが返ってきた。
深セン市民:
「ドローンにはもちろん、安全上のリスクはあるでしょうね。騒音の問題もありますし。新しい技術ですから安全に使用するために一定の制限は必要だと思います。しかし、技術が発展すれば問題は解決されるでしょう」
取材後記
テレビの地上波で放送したこの「ドローン」取材をYouTubeにアップしたところ、たくさんのコメントが寄せられた。
「中国のドローン技術はすごい」「日本も見習うべきだ」と称賛するコメントがある一方、その安全性を疑問視したり、中国のドローン技術を揶揄するようなコメントも多く並んだ。
中国のドローンをめぐる状況について私は「非常に中国らしい」展開だ、と感じている。
というのも、日本では、例えば「空飛ぶ車」や「ライドシェア」のような新しい技術や制度を導入するかどうか議論する際、利便性などのメリットよりも安全性などのデメリットばかりが強調され、慎重になる傾向がある。
一方で中国は「まずはやってみる」。そしてトライ&エラーを繰り返しながら問題を解決し、軌道修正しながらとにかく前に進んで行こうという姿勢があるように感じる。
もちろん、政治制度や人権に対する考え方が違う中国と日本を単純比較することはできない。
しかし、「まずはやってみる」という中国のチャレンジ精神が、「低空経済」の凄まじいまでの発展の勢いを後押ししているのだと思う。
中国と同じく少子高齢化、人手不足の問題に直面する日本にとっても、中国の「低空経済」への取り組みから、多くのヒントを得ることができるのではないだろうか。
JNN北京支局 室谷陽太