必要なのは、自分の「好き」を深めること

映像作品では、監督の演出や俳優の芝居を最大限に引き立てるため、事前に構図を考えることが重要だ。では、構図を決める際にどのようなことを意識しているのだろうか。

「映画の撮影現場で身についたクセかもしれませんが、構図は全体を見渡して、自分の感覚で決めたいんです」と語る。映画の現場では、俳優が芝居や動きを確認する段取り(リハーサル)の後でカット割を決めることが多い。その際に全体を俯瞰し、「どの位置から撮るべきか」をじっくりと考えるという。この方法はドラマ撮影にも反映されており、「自分だったらどう撮るか」を常に考えながら撮影位置を選んでいるそうだ。

「1つのシーンの流れをどの位置からなら最初から最後までスムーズに撮れるかも考えます。それをすることで、どれだけ色々な角度から撮影しても、全体の統一感を損なわない場所を見つけることができるんです」。

全体のバランスを保ちつつ、感覚を活かした構図の決定。このアプローチには、映像作品における独自の視点と丁寧なこだわりが垣間見える。

加藤氏は、「構図や配置は最終的に自分の感覚が頼り。でもその感覚を磨くには、日々の積み重ねが必要」と語る。その積み重ねとは、驚くほど基本的なものだ。

「たくさんの映画やドラマを観ることですね。好きな役者や監督、撮影監督を基準に選ぶこともあれば、予告編の色味や照明が気になって観ることもある。結局、自分の“好き”を掘り下げることが感覚を鍛える近道なんです」。

この哲学が反映されたのが、加藤氏が撮影監督として手掛けた『地獄の果てまで連れていく』だ。

「佐々木希さんと渋谷凪咲さんという美しい二人が織りなすドロドロした復讐劇ですが、そこにスポ根的な要素も加わっています(笑)。紗智子(佐々木)は復讐に燃えながらも、何度も麗奈(渋谷)に挑んでは敗れる。そして根性で立ち上がる。その重さを強調しすぎると暗くなりすぎるし、スポ根感が強すぎると安っぽくなる。そのバランスを取ることを意識しました」。

美しさと緊張感を両立させる映像表現は、加藤氏の独自の感覚が支えるものだ。

「まず、自分が本当に好きなものを撮ること。それをどう見せたいかを考えるだけで、写真や動画の印象は大きく変わる」。

この視点は日常のスマホ撮影にも応用できる。自分の「好き」を追求することが、日常の何気ない風景を特別な作品へと変える一歩となるかもしれない。