国内外の映画やドラマ、CM、ミュージックビデオと多岐にわたるジャンルで活躍するカメラマン・加藤十大氏。代表作の映画『バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画を作ったら』(2021年/松井大悟監督)やドラマ『トリリオンゲーム』(2023年/TBS)に共通するのは、映像美への妥協なき追求だ。現場では監督の意図を汲みつつも、独自の視点から最適な構図を提案し、シーンの持つ魅力を最大限に引き出すことに徹している。
加藤氏が常に重視するのは、「何をどう見せるか」というシンプルで本質的な問い。その哲学は、誰もが手軽に使えるスマートフォンでの撮影にも応用できる。目線や奥行きを意識したわずかな工夫が、驚くほど印象的な映像に変える鍵になる。さらにプロならではの視点を通じて、一味違う映像を撮るための心得を教えてくれた。
技術だけでなく、映像を通して伝えたい想いを形にする。その奥深さを支える哲学は、佐々木希主演の『地獄の果てまで連れていく』(TBS)の映像美にも色濃く反映されている。天宮沙恵子プロデューサーは「復讐劇ながら美しい映像で魅せたい」との想いから加藤氏を起用。過去作で感じた世界観づくりの巧みさが決め手となった。加藤氏の独自の感性が、本作に新たな深みを与えている。
カギは、相手の目線に寄り添うこと

スマホひとつで、誰もが簡単に写真や動画を撮れる時代になった。ペットの可愛い寝姿、子供がTVから流れてきた音楽に合わせて踊り出す姿、急な面白ハプニングなどシャッターチャンスは突然やってくる。だが、その瞬間をただ「撮る」だけではなく、記憶にも心にも残る映像に変えるにはどうすればいいのか?
「被写体と同じ目線に立つ。それだけで写真や動画の印象は大きく変わります」。
加藤氏が語る撮影の基本は、意外にもシンプルなものだ。子供を撮るなら、つい立ったまま上から見下ろしてしまいがちだが、しゃがんで目線を合わせるだけで、新しい世界が広がる。
「動画なら、ずっとお子さんの目線で一緒に動いてみる。大人と子供では見えているものが全然違うので、視線を低くするだけで、面白いものがたくさん撮れます」。

プロとして映画やドラマで数々の世界を切り取ってきた加藤氏は、視線の重要性をこう語る。
「人の目はどうしても画面の真ん中に引き寄せられる。話している人を真ん中に置くと、視線をあちこち動かさなくても済むので、観ている人が疲れないし、内容に集中できる」。
ただし、映像作品ではあえて真ん中を外すこともある。これには明確な意図があると続ける。
「話している人を画面の左側に配置する場合、その視線の先には右側に対象物を置きます。これだけで、視線の向きが自然に伝わり、画面全体の流れがスムーズになります」。
視線誘導のテクニックは、プロの現場で当たり前のように使われているルールだという。「撮影は難しいものだと思わなくていい。対象をどう見せたいかを考えるだけで、撮れるものが変わる」と続ける。記録にとどまらず、物語を感じさせる一枚を撮りたい人に、このテクニックはぜひ試してほしい。