神経尖らせる習近平指導部

習近平主席は地震発生直後に、救助に全力を尽くすよう直接、指示した。「被災者に温かい環境を用意するように」と具体的な指示の言葉も、国営メディアは紹介している。ここで、共通して使われるキーワードが「団結」だ。指導者と被災者の団結、中央と地方の団結、そして、国民の大多数を占める漢族と、現地の少数民族・チベット族の団結だ。

習近平主席が直々に、指示を出す――。大きな災害が起きれば、チベットに限らず、トップがそのような指示を出すことがあるだろうが、チベットでは過去に、中央の統治に反発して大規模暴動が発生した。

2008年、チベット自治区に端を発した暴動・抗議活動はチベット自治区だけでなく、チベット族が居住する各地に飛び火した。この事態を受け、共産党指導部はチベット族に対してチベット語ではなく、標準語や共産党思想の教育を徹底した。いわゆる同化政策だ。その締め付けは、習近平政権になって一段と厳しさを増す。だから、指導部は自然災害であれ、チベットで起きた事態に、神経を尖らせる。

ダライ・ラマの声明に極端な反応見せる中国

チベットといえば、一人の人物の存在が気になって仕方がない。ダライ・ラマだ。

インドに亡命中の、チベット仏教において宗教的、政治的の最高指導者、ダライ・ラマ14世。今年90歳を迎える。インドに亡命したのは今から66年前。ダライ・ラマは、自分のいないチベットで地震が起きた7日、声明を発表した

「壊滅的な地震が起きたという情報に接し、深く心を痛めています。亡くなられた方のご冥福、負傷された方の一日も早い回復をお祈りしています」

ダライ・ラマは、信仰心の篤いチベットの人たちにとって、もっとも大切な存在だと聞く。遠くインドにいても、その思いは変わらないのだろう。一方、中国外務省は、ダライ・ラマが声明を出したことについて、こう言っている。

「ダライ・ラマは祖国分裂主義者であり、その本質と政治的たくらみを、われわれはよく分かっている。高度な警戒を保っている」

「災害に乗じ『政治的なたくらみ』を、チベットに広げようとしている」ということだろう。災禍にある、自分と同じチベット族への純粋な思いだと感じるが…。このような極端な反応こそ、国際社会が中国を奇異に見る要因の一つではないか。