取材を終えて

兵庫県西宮市は、阪神淡路大震災で非常に大きな被害がありました。報道番組で使用されている映像にも、西宮市で撮影されたものが多くあります。

しかし私は、今回取材をした仁川百合野町の地すべり被害を知りませんでした。地震発生直後、閑静な住宅街を襲った「地すべり」は一瞬にして34人もの人々の命を奪いました。

話を聞いたご遺族・中村順一さんは、当初「30年経過しているので、心を動かすような話はできないと思います」と仰っていました。しかし実際に話を伺うと、その淡々とした口調の中に、当時の深い悲しみや嘆きを確かに感じました。

医師として人の死を目の前で目の当たりにしてきた中村さんが、身近な家族の死に直面した時、「健康に生きるパーツが揃っているのに、もう動くことはない」「そこに”絶対”があるのだと感じた」と話していたことが、強く心に残っています。

そして、今も目の前の患者の命に向き合っている中村さんの心の中に、2人は生きていると感じました。

災害時、目の前のことを記録し、伝えることがわれわれ報道機関の役割です。今回、MBSに公開された資料。記録写真の撮影を命じられた隊員がのちに残した手記には「胸が詰まってシャッターを切れない現場もあった」などと記されていました。

本来は人命救助を最優先とする消防隊員。多くの市民が助けを求める中で、活動記録に専念することは、悔しく無念だったと思います。しかし、1363枚の写真は非常に貴重な記録であり、1枚1枚に私たちが伝えていくべき経験と教訓が映し出されています。そして、震災を経験した1人1人に、それぞれの思いがありました。