■政府関係者「可能性はある」

介入前夜、私は ある政府関係者を取材していました。

ーー明日、為替介入の可能性はありますか?
あるでしょうね…

ーー1ドル=145、150円とか水準ではなく、問題はスピードですか?
そう、問題はスピード…円安の動き方次第

24時頃、仲間たちとその情報を共有し私は翌朝、通常なら午前9時ごろに入る財務省に午前7時に到着しました。

介入を実際に決める、神田財務官の朝の「登庁」を取材するためです。

■「オン」か「オフ」か…

テレビ局で、その場にいたのはTBSテレビと「もう1社」のみ。

「もう1社」の記者からは「カメラどうします?」「回さなくてもいいかな~と思っているんですけど…」と尋ねられたので「まあ、なんとなく雰囲気で…笑」と、私は答えを濁しました。

その日(22日)、円買いドル売りの為替介入をするとしたら、それは1998年以来、約24年ぶりのこと。「カメラを回さない」という選択肢は私の中ではありませんでした。

(注:テレビ記者はカメラを回さないことで、「本音」を聞き出すことを優先する場合とカメラを回して「音」を優先する場合があります。前夜の政府関係者情報もあったので私は「音」を優先することにしました。)

◆7:30◆

神田財務官は自室に入る直前、カメラで撮影されていることを承知の上でこう話しました。

「昨日の夜はまったく予想した通りだったので、良かった」


アメリカのFRB(連邦準備理事会)は21日のFOMC(連邦公開市場委員会)で事前の大方の予想通り0.75%の利上げを決定しました。

一部には1%の大幅利上げを予想する声もあったため、神田財務官のほっとした表情で若干、介入の可能性は薄らいだ…かのようにも感じましたが、同時になんとなく、財務官が過度に平静を装っているような気もしました。

■「協調介入はできない」

為替介入をする場合、通常は効果の高い日米での「協調介入」を選択します。


鈴木財務大臣と、アメリカのイエレン財務長官がワシントンで直接話し合った、4月の日米財務大臣会合でも「協調介入の可能性」について意見が交わされましたが、合意には至りませんでした。

この日(22日)までの周辺取材でも「日米が現段階で協調介入する可能性はない」「介入するとしても、日本の単独介入で、アメリカ側はあくまで容認・黙認という姿勢にとどまる」と聞いていました。

また、「ミスター円」こと榊原英資・元財務官を取材した際に繰り返し言われたのが円安に対する介入の難しさでした。

円を刷ることで、いくらでも円を売ることができる円高に対する介入と比べて180兆円程度の限られた外貨準備(米国債)を切り崩すことになる「円買いドル売り」の円安に対する介入は、おのずと限界があるのです。

日銀の金融政策決定会合(9月21日~22日)とアメリカのFOMC(9月20日~21日)の利上げ決定のタイミングがほぼ重なってしまうのも9月の特徴でした。

タイミングが重なることで「変動の幅」も大きくなるのではないか?
「変動の幅」が大きければ、為替介入の可能性も高まるのではないか?


そんな仮説を立てながら、取材を続けていました。