ホンダ・日産 経営統合へ協議 両者が抱える事情と狙い

自動車業界を取材しているTBS経済部の梅田翔太郎記者に話を聞く。

――日産の経営再建問題が日本の自動車産業の未来の問題に変わってきた。ホンダの三部社長が今回「統合もあり得る」と言って驚いた。どういう状況か。

TBS経済部 梅田翔太郎記者:
驚いた。急転直下で進んだというのもあるが、三部社長は今回の統合にかける思いが結構あって、喋りたかったのだろう。(取材の時に)待っていたら、三部社長と青山副社長が話していた。インタビューに答える前に2人で打ち合わせしてから、記者の囲み取材を受けるという形だった。統合に対しての意気込みを、はっきりとは言えないまでも伝えたいという意思をすごく感じた。走ってから帰って話すまで30分ぐらい時間があり、その間に何社か来た。そういうところまで見計らっていたのかもしれない。

ホンダ・日産 経営統合へ協議 背景に日産買収の動き?

――ホンダが、頼まれたら協業するという立場から、統合に向けて前向きに踏み込んでいった理由は?

TBS経済部 梅田翔太郎記者:
鴻海(ホンハイ)という会社が、日産に対して接触しているという話が浮上してきた。おそらく経済産業省を含めてホンダに統合へのアプローチみたいなのものがあったのではないかとみている。

――今までは待っていればいいだけだったものが、待っているだけでは、日産は取られてしまうかもしれないということか。

TBS経済部 梅田翔太郎記者:
協業は3月から断続的に進めていったが、日産とホンダの社風が違っていて、腰が少し重かったのではないか。なかなか交渉が進展している様子を感じられなかったが、ここにきて一気に加速した。そういった背景があったからではないか。

鴻海は、シャープを買った台湾の電子機器受託生産大手。EV部門最高戦略責任者の関潤氏は、日産の元副COO。日産の内田誠氏が社長になる時に社長候補だと多くの人に言われていた人。日本電産を経て鴻海にいる。鴻海が日産の株を買うかもしれない中、EVを作ろうとしている。

――この動きは、ウェルカムなのか、迷惑なのか。

TBS経済部 梅田翔太郎記者:
非常に複雑。日産社内でも、ホンダとの経営統合に進んだ方がいいという声も当然あるが、一方で鴻海と組んだ方が、経営の自主権は保たれるのではないかという声もあり、社内ではいろんな声が巻き起こっている。

――鴻海と組んだ方がいいというのは、どういう意味か。

TBS経済部 梅田翔太郎記者:
ホンダの方が経営体力もあり、車のビジネスもすごくよくわかっている。技術も含めて飲み込まれてしまうのではないかという懸念が日産の中にある。鴻海はEV事業を立ち上げたばかりで、車のビジネスにすごく入り込んでいるわけではない。車を知っている自分たちが経営の主導権を握るのではないかという見方をしている人がいる。

――12月23日には、統合について発表できそうか。

TBS経済部 梅田翔太郎記者:
12月23日に取締役会を開いてそこで統合協議については決議する見通し。ただ日産社内いろんな声がある中で、なかなかその全会一致で協議という形にはならない可能性も高いのではないかと見ている。

――統合の形態はとりあえず持ち株会社の下に2つの会社をぶら下げる。そのハードルとして一番大きなものは何か。

TBS経済部 梅田翔太郎記者:
持ち株会社を設立するということで、その統合比率をどうするか。日産は足元の業績が非常に厳しい状況。それも含めて50:50に持っていくのは厳しい。

現在ルノーが保有している日産の株は約17%で、残りの18.6%は信託銀行に移されている。台湾の中央通信によると、鴻海はルノーが持っている日産株の取得を目指して交渉していると伝えている。

――ルノーは日産に対して一時40%以上の株を持っていた。これを対等にしようと何年も交渉やって15%の議決権しか持っていない。残りの部分は信託していわば金庫に入れたような形になっている。この株を何とかしないと、ルノーが新会社の株主になる。

TBS経済部 梅田翔太郎記者:
ルノーが持つ日産株については、双方で売却についていろいろルールや取り決めがある。売り先は、日産が筆頭候補で優先的な地位にあることがまず前提条件。

――日産が買い戻せるなら、まずそれが優先だと。

TBS経済部 梅田翔太郎記者:
ただあくまで優先的であるということで、他に売ることもルール上可能だが、競合には売れないという2つがルールとして存在している。鴻海は競合なのかというと、日産の関係者を取材していると、競合とは言えないのではないかという声もあって、鴻海が買える余地はある。それで今回、鴻海がルノーに対してアプローチをしてきているのではないか。

――鴻海からすると、ホンダ・日産の統合を全否定して、自分が全部丸ごと買収しなければいけないとは必ずしも考えていない。

TBS経済部 梅田翔太郎記者:
鴻海が正式な態度を表していないところもあり、態度を保留するという報道もあったが、場合によっては、この枠組みの中に株主として関与するというのも選択肢の一つだろう。関氏は日産の取締役に対して買収のアプローチを仕掛けてきてたりしている。日産を買収することも含めて多面的に考えているのではないかと思う。

――場合によっては、この株をどうするかというときに、国が出てくる可能性がある。

――サプライチェーンの問題がある。サプライチェーン企業の統合や選別なども進んでいくというリスクもあるか。

TBS経済部 梅田翔太郎記者:
本当に日産とホンダは丸被り。日本・アメリカ・中国がメインターゲットで、作っている車も商用車というよりは一般的な乗用車でそこも被っている。なので、各地に工場は持っているが、サプライチェーンも重なっているのでどうやって整理するのかが課題だ。

――雇用と下請け企業の維持は、大きな課題になってくる。日本は自動車1本足打法で成長を支えてる国だけに、この推移によっては大変なことになる。

東短リサーチ 加藤 出氏:
家電産業と半導体産業が凋落したあと、国内での生産が減って、日本の中間層が薄くなり、所得水準も下がった。その点で、基幹産業である自動車が急に傾いていくと、大変厳しいことになる。ただ、一方でどうしても電気自動車の比率が高まるから、このまま平行移動して10年後、20年後は続けていけない。その点でも整理しつつ、一方で新しく稼げる産業をいかに育てるかということをやっていかなくてはならない。

(BS-TBS『Bizスクエア』12月21日放送より)